[PR]

 冒険家でプロスキーヤーの三浦雄一郎さん(86)が、来年1月に南米最高峰アコンカグア(6961メートル)の登頂とスキー滑降に挑みます。「限界まで頑張りたい。その限界が頂上であれば、これ以上ない素晴らしいこと」。86歳という高齢に加えて、持病の不整脈を抱えた中での難度の高い挑戦を、飽くなき冒険心への意欲が支えているようです。

 アコンカグアは、アルゼンチンのチリ国境付近のアンデス山脈にそびえる名峰です。7千メートル近い標高のため、高山病や乾燥、厳しい寒さなど86歳の高齢者にとって、「難攻不落」のハードルが続きます。特に恐ろしいのは、「ビエント・ブランコ(白い嵐)」と呼ばれる強風です。凍傷や低体温症につながる、アコンカグアならではの気象現象です。

 遠征隊は三浦さんを隊長に計7人で組織されます。三浦さんを含む全員がエベレスト登頂者です。1月2日に出国して現地入りし、高所の薄い酸素に体を慣らす高度順応をします。16日、4200メートルのベースキャンプ(BC)を出発。前進キャンプを経由して高度を上げ、21日に登頂。下山時に山頂付近にあるポーランド氷河の一部をスキーで滑る予定です。

 1985年、三浦さんはアコンカグアに登頂し、スキーで滑りました。今回の遠征について、「アコンカグアは、長年の夢だった7大陸最高峰スキー滑降を達成したときの素晴らしい山で、今も心が動かされる」と、山を選んだ理由を説明しました。

三浦さん支える「ドリームチーム」

 三浦さんのチャレンジを支えるのが「ドリームチーム」と呼ばれる遠征隊メンバーです。副隊長で次男の豪太さん(49)は、スキー・モーグルの元冬季五輪代表として知られています。70、75、80歳で三浦さんがエベレストに登頂した遠征に同行しました。登攀リーダーで山岳ガイドの倉岡裕之さん(57)は、アコンカグア登頂11回の実績の持ち主です。2013年のエベレスト遠征では、80歳の三浦さんを山頂まで導きました。

 日本人初の国際山岳医でチームドクターの大城和恵さん(51)は、医療面で三浦さんを支えます。「生物学的には明らかに86歳。きっちりサポートして、生還という結果で報告したい」。13年のエベレスト遠征では、第2キャンプ(約6500メートル)で待機し、三浦さんのアタックのサポート役を務めました。

 三浦さんの挑戦を映像などで記録するのは、「登山界のアカデミー賞」と呼ばれるフランスの「ピオレドール(黄金のピッケル)」を日本人で初めて2度受賞した平出和也さん(39)と、今年ピオレドールを受賞した中島健郎さん(34)の2人です。東海大山岳部OBの平出さんは、13年のエベレスト遠征でもカメラマンを務めました。関西学院大山岳部出身の中島さんも、山岳カメラマンとして実績を積んでいます。2人とも、世界レベルの登山家であり、登攀メンバーとしても三浦さんをサポートすることになります。

 遠征全体のロジスティックや通信などを担当するのは、貫田宗男さん(67)。エベレストには2度登頂。95年、日本初の山岳コンサルタント会社「ウエック・トレック」を設立しました。最近では、日本テレビの番組「世界の果てまでイッテQ!」に出演し、「天国じじい」のニックネームで人気を集めています。三浦さんは「これ以上ないスタッフ」と、絶大の信頼を寄せます。

「プロ」の肩書にこだわり

 13年、私は、標高約5300メートルのエベレストのBCで、世界最高峰に挑んだ80歳の三浦さんを取材しました。印象的だった言葉は「年寄り半日仕事ですよ」でした。8千メートルを超す超高所に挑むため、現地入り後、疲労を残さないため、登山口からBCまでの1日の移動距離を通常の半分にしました。

 アタックでは、通常の登山隊は前進キャンプを四つ設けるところ、二つ多い六つとして1日の高度差を少なくしました。いずれも、登攀リーダーの倉岡さんが、三浦さんの体力に見合った登山計画に合わせた「タクティクス(作戦)」でした。

 三浦さんは、肩書をプロスキーヤーにしています。「プロ」へのこだわりからです。プロは、スポンサーなどからの支援を受けるため、オリジナリティーと結果が求められます。「誰も出来ないことで結果を出す」。それがプロの証明でもあるわけです。

 これまでの挑戦も、66年のパラシュートでブレーキをかける富士山大滑降のほか、70年のエベレスト大滑降では8000メートル地点から雪壁のような斜面に挑みました。その後は、7大陸最高峰のスキー滑降を達成しました。60歳を過ぎてから、再び冒険心がわき上がり、70歳を超えてから3回のエベレスト登頂。そして、今回のアコンカグア登頂とスキー滑降です。

 一見、無謀とも思えるチャレンジですが、三浦さんは「86歳の超高所でのスキー滑走は、若き日のようにいかなくとも、年齢を言い訳にせず、出来ない理由を考えた方が人は元気に輝く」と臨みます。

 超高齢化社会を迎える中、三浦さんの挑戦は、多くの人に勇気と希望を与えると思います。

         ◇            ◇

 今回の登山に、朝日新聞大阪本社社会部の金子元希記者(39)が同行して取材します。金子記者は高校時代に登山を始め、大学生のときには、インドのヒマラヤ山脈の未踏峰(5600メートル)やペルーのアンデス山脈の約5700メートルの山など海外の登山歴もあります。今年、別の取材で三浦さんに会う機会があり、遠征計画を知りました。86歳という高齢での困難への挑戦をより多くの人に伝えたいと、三浦さん側に同行を提案して認められました。

<アピタル:近藤幸夫の山へ行こう・健康と安全>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/climb/(近藤幸夫)

近藤幸夫

近藤幸夫(こんどう・ゆきお) 朝日新聞山岳専門記者

1959年。岐阜市生まれ。信州大学農学部卒。86年、朝日新聞入社。初任地の富山支局で、北アルプスを中心に山岳取材をスタート。88年から運動部(現スポーツ部)に配属され、南極や北極、ヒマラヤで海外取材を多数経験。2012年から日本登山医学会の認定山岳医講習会の講師を務める。現松本支局長兼山岳専門記者。