[PR]

 年の初めはダイエット。というわけではありませんが、食べ過ぎ飲み過ぎになりがちな正月休み明け、今年1回目のこの欄では、英国栄養士会(BDA)による「2019年やってはだめなセレブダイエット」を紹介したいと思います。セレブが行っているけれど、栄養士から見るとNGなダイエット法を指摘する、毎年恒例の企画。昨年も取り上げたのですが(※1)、今年も興味深いものが並んでいます。

 今年のやってはいけないダイエットは、血液型ダイエット、飲尿法、デトックス茶/痩身(そうしん)コーヒー、スリミング小袋サプリ、アルカリ水の五つ。

 中でもアルカリ水のファンには、トランプ米国大統領、オバマ前大統領、ビヨンセ、ビル・ゲイツ、マドンナと、そうそうたる大物の名前が挙げられています。

 BDAによるとアルカリ水とは「通常の飲料水よりもpHが高く、カルシウム、シリカ、カリウム、マグネシウムなどの化合物を含む」水のこと。それ故に、アルカリ水を飲むことで「栄養代謝を助け、通常の水道水よりも効果的に毒を除き、より健康に導くと信じる人たちがいる。健康問題の原因となる血液の酸性を下げてくれるという考え方もある」のだそう。

 多くの水を飲むことは健康全般によいことであるとしながらも、BDAは「水道で自由に飲めるのに、高価な水に金を浪費するべきではない」とバッサリ。「このダイエットは人間生理を誤解しており、確かな根拠に基づいていない」と指摘します。水のpHは血液のpHに影響を与えることはなく、人間の体は血液のpHを一定の幅に収まるよう制御しています。もしその幅を外れるようなことがあれば、病気につながる。それに、ほとんどの人が、健康な肝臓と腎臓の働きによって体から毒を除いているのだ、と。

 実はこれ、昨年のだめダイエットに名指しされた「アルカリダイエット」とほぼ同じ議論。こちらは、アルカリ性の食品を多く食べ、酸性の食品を減らして血液のpHバランスを変えると主張するものでした。アルカリ、という言葉が健康に良いイメージを持っているのでしょうか。

 血液型好きは日本人に限らないのか、と思ったのが、血液型ダイエット。食べてはいけないものやたくさん食べた方がよい食品を血液型別にタイプ分け。歌手のクリフ・リチャード、シェリル・コールらが実践しているのだとか。

 「血が沸騰する!」とBDAは怒りの鉄槌(てっつい)。「何の科学的根拠もない。これで体重が減る人がいるのは、あれこれと食べるモノに制限を加えて、食事から得られるカロリーが減るためだ」としています。

 デトックス茶/痩身コーヒーについては、「この手の痩せる飲み物は長年売られていて消えることがない。ソーシャルメディアでは、スリムで魅力的なセレブや健康関連の話題を書くブロガーによる宣伝がおなじみになっている」と言います。それが、本来減量など必要ない若い世代をターゲットにしているのが問題だと。

 多くは大して根拠のないハーブを含んでいる程度で、わざわざ買って飲んでも効果がない。それで済めばいいのですが、下剤に使われるセンナを含む製品もあり、悪くすると、健康を害する危険性があると指摘します。

 英国王室では昨年、ハリー王子とユージェニー王女(エリザベス女王の次男アンドルー王子の次女)が結婚しました。2人が結婚式前に使い話題になったらしい「スリミング小袋サプリ」もまた、だめダイエットに挙げられています。2人を指導した栄養アドバイザーのガブリエラ・ピーコックさんが手がけるサプリで、1カ月分が100ポンド(約1万4千円)するのだとか。

 中身は、水溶性植物繊維であるグルコナンマンのパウダーと、デトックス・カプセル、消化サポート・カプセルのセット。「このサプリも、そして幾千の類似商品も、体重減にはまったく必要ではない」とBDAはきっぱり。「奇跡的な結果を売りに販売されている、いかなるサプリについても私たちは懐疑的だ」と。

 女子栄養大出版部が発行する雑誌「栄養と料理」の編集委員、監物南美さんに、BDAのこのニュースについて意見を聞いてみました。「日本でも似た飲料やサプリはよく見かけますし、科学的言い回しをしながらも実は根拠がないダイエットが話題になりやすいという状況は英国と似通っているという印象です」と監物さん。最近気になるのは、健康に対する高い関心を背景に、科学的に正しい部分もあるけれど全体としては疑問のある健康法が増えていることだと言います。商品を売るためにありもしない効果をうたう商品は怪しいと気づきやすいけれど、こうした、部分的に正しさと怪しさが混じり合っている話は、真偽の線引きが難しい。

 そういえば、前出のピーコックさんのサイトにあるブログに「好きなものを食べて、減量する(ホントに!)」(※2)という記事がありました。辛くないダイエット方法をいくつか紹介しているのですが、「日常に運動の習慣を採り入れる」「空腹を感じた時、スナックを口にする代わりにコップ一杯の水を飲む」「食事のポーション(大きさ)を小さくする」などとあって、かなり穏当。ただ、読み進めていくと最後にサプリセットがさりげなく登場していました・・・。

 科学とは言えないのに科学であるかのように装う言説は疑似科学と呼ばれます。監物さんは「BDAは、栄養の専門家として知識を生かし社会に広がる疑似科学に対して反論し情報発信している。日本でも栄養士会が一般向け情報発信を始めていますが、もっと先を行っていて、すごいと感じます」と話します。

 流行に惑わされないための基本は何でしょうか。「減量は、消費エネルギーが摂取エネルギーを上回る結果、起こること。これができれば必ず痩せるし、できなければ痩せないか太ります。気になるダイエット法があったら、この基本を当てはめて考えてみてください。安全性に問題がなく、自分のモチベーションが上がって楽しくできそうなら、試してみるのも一つの手。でも、自分の体を実験台にするような行為はどうぞ慎重に。どんどん痩せるようなものは、むしろ危険。体を壊す可能性が高いと考えて」

 ダイエットに限らず食と健康に関する情報は世の中にあふれています。科学的根拠がある情報かを見極めるには、引用されているデータなどの出典が明記されているかをチェックするのも一つの手がかりになります。できれば元の論文まであたれればいいのですが、一般の人にはなかなかハードルが高い。

 監物さんが担当する「栄養と料理」での連載「佐々木敏がズバリ読む栄養データ」では、東京大学大学院医学系研究科の佐々木教授が食べ物・健康情報について論文検索に基づき検証、グラフや図も交えて解説しています。話題の食事法や食品成分が俎上(そじょう)に上ることもしばしば。1月号では「低糖質ダイエットで寿命は延びるか?」というテーマを取り上げました。連載を単行本化した「佐々木敏の栄養データはこう読む!」「データ栄養学のすすめ」(いずれも女子栄養大学出版部刊)もあります。ジャンク情報に踊らされず、深く栄養健康情報を知りたい人におすすめです。

 

関連URL

※1 2018年、やってはいけない五つのセレブダイエット

https://digital.asahi.com/articles/SDI201712280530.html

 

※2 栄養アドバイザー、ガブリエラ・ピーコックさんのサイトから

https://gpnutrition.com/blogs/gp-wellness-blog/eat-what-you-want-and-lose-weight-no-really別ウインドウで開きます

 

※3 BDAのニュースリリース

https://www.bda.uk.com/news/view?id=224別ウインドウで開きます

 

<アピタル:食のおしゃべり・トピック>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/eat/

(大村美香)

大村美香

大村美香(おおむら・みか) 朝日新聞記者

1991年4月朝日新聞社に入り、盛岡、千葉総局を経て96年4月に東京本社学芸部(家庭面担当、現在の生活面にあたる)。組織変更で所属部の名称がその後何回か変わるが、主に食の分野を取材。10年4月から16年4月まで編集委員(食・農担当)。共著に「あした何を食べますか?」(03年・朝日新聞社刊)