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 がん対策の効果を患者目線から検証する一つの手法として、「患者体験調査」があります。厚生労働省の委託を受けて国立がん研究センターが実施しているもので、がん患者さんを取り巻く医療や生活の実態を把握し、がんをめぐる政策に反映させる目的で2015年から進められています。全国のがん診療連携拠点病院の中から無作為に抽出され、アンケートが実施されています。最近、この一環として、患者家族の状態を明らかにするための「遺族調査」が計画され、その予備調査の結果が公表されました。患者さんを亡くした家族の精神的な負担や取り巻く医療的な状況が少しずつわかってきました。

遺族調査とは?

 病院へ行くことが困難な患者さん、特に、亡くなる前の患者さんが利用した医療や療養生活の実態はどうやって把握したらよいのでしょうか?

 それが今回紹介する「遺族調査」です。イギリスをはじめとした海外では、遺族調査によって、医療の質や介護保険サービス、緩和ケア、在宅医療などの対策を評価しています。

 意外と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、日本で全国規模で行われたのは初めてのこと。予備調査ではありますが、その結果が18年12月26日に発表されたので、内容を紹介します。

 調査結果はこちらからみることができます。

https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2018/1226/index.html別ウインドウで開きます

 この予備調査は、16年の人口動態調査の死亡票情報から「がん」「心疾患」「肺炎」「脳血管疾患」「腎不全」で亡くなった患者のご遺族4812人を対象に、18年2月から3月の期間に、郵送によるアンケートで行われたものです。

 調査項目は、医療やケアの質、亡くなる前1カ月間の患者の療養生活の質、家族の介護負担やその後の精神的な負担なども含めています。興味のある方は、ぜひ、全文をみてみてください。施設での違いや、病気の種類での違いなど、とても貴重な声が浮かび上がってきます。

 アンケートの回収率の低さやご遺族への心理的な負担が懸念されましたが、有効回答(率)は拒否も含めて2295人(47.7%)と、とても高い数字になりました。また、回答拒否数は389人(8%)、その理由は「当時を思い出すことがつらい」が184人(47%)でした。こうした反応も、今後の参考にすべき大切な数値になります。

亡くなる前1カ月間の療養生活の質

 それでは今回の予備調査結果の中から、「がん」に関する部分を紹介したいと思います。

 「患者さまは療養中の苦痛症状について、どのように感じていたと思いますか。お亡くなりになる前の1週間の状況について」という質問に対しては、「とてもひどい」(10.7%)、「ひどい」(16.7%)など、亡くなる1週間前の時点で約3割の方が強い痛みを抱えていることが分かりました。また、亡くなる1カ月前でも、約3~4割の患者が、痛みを含めた身体の苦痛や気持ちのつらさを抱えていることが分かりました。

 がんと診断されてからの緩和ケアの大切さが言われてから約10年が経過しています。医療者を対象とした緩和ケア講習会なども行われていますが、まだまだ十分に行き届いていないことが推測されます。緩和ケアの質の向上とともに、その大切さを広く啓発していくことが大切なことが分かりました。

使いづらい、がん患者の介護保険

 「がん患者が介護保険サービスを利用しづらい」問題は、以前から指摘をされてきましたが、今回の遺族調査でも「死亡前6カ月間に介護保険を利用した人」が1515人いました。その約3割にあたる452人が利用していないことが分かりました。

 利用していない理由は、「介護保険を知らなかった」(12%)、「申請しなかった」(31%)、「申請したが利用できなかった」(23%)。この「申請したが利用できなかった」と回答した人の割合は、心疾患など他の疾患と比べて高く、本調査での更なる検証が求められると同時に、結果を踏まえた改善が求められます。

 介護保険の使いにくさは、私たちが実施した16年の遺族調査「がん患者白書2016(遺族調査編)」にも表れています。この調査は40歳~64歳で亡くなった患者の遺族を対象にしたものですが、介護保険の申請率は36%しかありませんでした。申請しなかった理由は、「がん患者が使えると思わなかった、高齢者の制度だと思った、本人が認めなかった」の順です。

 介護保険は患者と家族の生活をさせる大切なサービスです。大切な最期の時間。がんは、限りが予測できる病気だからこそ、家族が負担なく寄り添える環境づくりが必要です。

遺族の心のケア

 今回の予備調査で、最近1カ月間の遺族の複雑性悲嘆(離別の苦痛)をみてみると、がん家族の約3割が後の精神的な負担が高いことが示され、一般人口と比べて高いことも分かりました。家族は第二の患者と言われてはいますが、心のケアが届いていないことがわかります。

 私たちの「がん患者白書2016」でも3割程度の方が1年以上落ち込みを経験しており、下に示したグラフのように「知らずに涙がでる、無欲・無力感、特定の場所へ行くと思い出す」といった声があがりました。家族は患者が亡くなったあとも生きていかなければなりません。家族、遺族の心のケアも、地域が支えるべき課題の一つになっています。

本調査の結果にも注目を

 今回の予備調査で、患者さんが無くなる前の家族の精神的な負担や医療の実情も明らかになりました。苦痛をとるための緩和医療の大切さが改めて認識できる一方で、みとりの場所によって提供される医療に差があることも見えてきました。また、専門的な施設でもとれない苦痛があることも分かります。

 今年実施される本格調査では、母数をさらに増やし、全国約5万人のご遺族を対象に調査が実施されます。調査結果から浮かび上がってくる今は亡き患者の声を認識し、今まさに必要としている患者と家族、そして未来の患者、家族のために、緩和ケアへの取り組みをより一層進めていくことが大切です。

 ちょうど1月21日に今年度の調査案内が公表されましたのでご興味のある方はこちらからみてください。

 国立研究開発法人国立がん研究センタープレスリリース(2019年1月21日)「患者体験調査」: https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2019/20190121/index.html別ウインドウで開きます

(がんとともに)

<アピタル:がん、そして働く>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/cancer/

(アピタル・桜井なおみ)

アピタル・桜井なおみ

アピタル・桜井なおみ(さくらい・なおみ) 一般社団法人CSRプロジェクト代表理事

東京生まれ。大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にて、まちづくりや環境学習などに従事。2004年、30代で乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がん経験者を含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。社会福祉士、技術士(建設部門)、産業カウンセラー。