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 貧血の多くは鉄欠乏性貧血です。そのため、貧血に対して鉄剤が投与されています。たいていはそれでいいのですが、原因が鉄欠乏ではなかった場合、貧血は改善しません。漫然と鉄剤の投与がなされている例もあり、はなはだしい場合は鉄剤の注射のせいで二次性鉄過剰症が起きて患者さんに害を及ぼすことについては前々回にお話しした通りです。

 普通の医師は、鉄剤を投与する前に貧血の原因が本当に鉄欠乏であるかどうかを確認します。貧血には鉄欠乏性貧血以外にも、溶血性貧血、腎性貧血、巨赤芽球性貧血、再生不良性貧血など多くの種類があり、それぞれが重複することもあります。慢性炎症や出血、薬の副作用に伴う貧血まで含めると、一口に貧血といってもきわめて多様です。

 鉄欠乏の有無は採血の項目で血清鉄およびフェリチンを測定すればほぼわかります。その他の貧血に関連する項目も一度に全部調べたいところですが、それでは医療費がいくらあっても足りません。やみくもに検査項目を増やすのではなく、さまざまな情報から貧血の原因をある程度絞ります。以下は、ごく基本的な採血で測る項目です。

 MCV、MCH、MCHCはそれぞれ、平均赤血球容積、平均赤血球血色素量、平均赤血球血色素濃度です。特別な検査を追加する必要がなく、基本的な検査項目から計算して算出できるのがポイントです。たとえば、平均赤血球容積は、ヘマトクリット(赤血球の全体積)を赤血球数で割ることで得られます。医師が電卓をたたかなくても機械が自動的に計算してくれます。

 平均赤血球容積は、平たく言えば、赤血球1個の大きさです。鉄が不足するとヘモグロビンの合成が障害され、細胞質の部分が少なくなり、赤血球が小さくなります。鉄欠乏以外にも慢性炎症や遺伝子異常による鉄利用障害でヘモグロビン合成が障害されると赤血球が小さくなります。平均赤血球容積が小さい貧血を診たときは、ヘモグロビン合成障害のある貧血を疑います。

 ヘモグロビンではなく、DNAの合成障害が起きれば、巨赤芽球性貧血といって、赤血球1個の大きさが大きくなる貧血が起こります。赤血球の数の不足を補おうとしているのでしょう。平均赤血球容積が大きい貧血を診たときは、DNA合成に必要な栄養素であるビタミンB12や葉酸が欠乏していないかを調べます。

 溶血性貧血や腎性貧血では平均赤血球容積は正常範囲内にあることが多いです。平均赤血球容積をとっかかりにして次の検査を考えます。検査項目だけでなく患者さんの症状、年齢、性別、病歴も参考にしますし、貧血の原因が鉄欠乏だとわかったとしても、今度は鉄欠乏の原因は何か、大腸がんや胃かいようが隠れていないか、といったことも検討します。大腸がんからの出血による鉄欠乏性貧血に鉄剤を投与すると、貧血が改善して症状は軽くなり、がんの発見が遅れることになりかねません。貧血なんか鉄剤を出しておけばいいのだろう、なんてお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、これがなかなか難しいものなのです。

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(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。

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