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 風邪が流行する季節です。のどの痛みやせきに悩む人もいると思います。そんなとき、薬に頼らず、生姜(しょうが)湯・ネギを首に巻く・卵酒……風邪に効くとされている方法を試したことはありませんか? そんな民間で伝わる「おばあちゃんの知恵袋」のような療法には、科学的な裏付けはあるのでしょうか。

◯×クイズ:「風邪の予防」の有効性が証明されているサプリメントはない。
(※答えは、本文中にあります)

▼予防法・治療法の効果は「ランダム化比較試験」で検証される

▼複数のランダム化比較試験をとりまとめて再評価するシステマティックレビューという検証方法がある

▼サプリメントなどの民間療法も、システマティックレビューによる検証が進められている

「効く」の科学的な裏付け 正確さが高いのは?

 そもそも薬や治療などが「効く」ってどう検証されているのでしょうか?

 その薬が効くという結果が信頼できるかどうか、つまり情報としての正確さは、検証方法(研究デザイン)によって変わってきます。

写真・図版

 上記の図の通り、「この薬が効いた!」といった経験談や専門家の意見は情報としての正確さが最も低く、動物実験なども低くなります。

 薬の開発で、重要なステップとして位置付けられているものに「ランダム化比較試験」があります。これは、対象者をランダムに二つのグループに分けて、一方には評価しようとしている治療、もう片方には異なる治療を行い、一定期間後に評価しようとしている指標について比較検討する臨床試験の方法です。

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 これは、薬に限らず、健康食品をはじめとした民間療法や、治療を補う目的のサプリ、はり・お灸(きゅう)、マッサージといった補完代替療法でも同じです。

 さらに、このランダム化比較試験の結果が複数あれば、それをとりまとめて再評価する「システマティックレビュー」という検証方法があります。システマティックレビューで有効性が確認されれば、その治療法の効果は確からしいと言うことができます。

システマティックレビューで検証された民間療法はあるのか?

 突然ですが、「コクラン(Cochrane)」という組織を知っていますか?

 この組織では、健康上の意思決定をしたいと考えている人に質の高い情報を提供するため、さまざまな施術や療法に関するシステマティックレビューのデータベースを作成しています。

写真・図版

 そのコクランのデータベースを検索したところ、風邪の予防や治療に有効かどうか検証した報告が五つ見つかりました。

 「ビタミンC」、「ガーリック(ニンニク)」、ハーブのひとつ「エキナセア」、菌などの体にいい作用のある生きた微生物「プロバイオティクス」といった四つのサプリメントや製剤などと、「鼻洗浄」です(※1~5)。どんな報告なのか、簡単にご紹介します。

ビタミンC

・システマティックレビューの条件を満たした29件の臨床試験を対象に解析。

・一般集団においてビタミンC(1日0.2g以上)を補充しても風邪をひく確率の低下は確認されなかった。

・短期間の激しい運動をする人は、ビタミンC(1日0.2g以上)の補充が風邪予防に有用となる可能性がある。

・風邪の症状があらわれてからビタミンCを大量に投与しても、風邪の症状の持続時間や重症度に対して一貫した結果は得られていない。

ガーリック

・システマティックレビューの条件を満たした臨床試験は1件のみ。

・ガーリックを摂取した参加者の方が風邪をひく頻度が少なかった(3カ月間で、ガーリック群で24件、プラセボ<にせの薬>群で65件)。

・風邪の症状の持続時間は、ガーリック群(4.63日)とプラセボ群(5.63日)で同じ程度だった。

エキナセア

・システマティックレビューの条件を満たした24件の臨床試験を対象に解析。

・風邪予防効果について好ましい傾向を示しているものの臨床的意義については疑問が残る。

・一部のエキナセア製剤では、プラセボと比べて風邪の症状の持続期間が短くなる可能性がある。ただし、試験によって用いられた製剤が違うため、確実な結論を出すのは難しい。

プロバイオティクス

・システマティックレビューの条件を満たした13件の臨床試験を対象に解析。

・プロバイオティクスを摂取した場合、プラセボと比べて、せきやたんの出る急性上気道炎の症状が認められた患者数が約47%減少し、症状の持続期間が約1.89日短縮した。

・プロバイオティクスを摂取した場合、プラセボと比べて抗菌薬の使用、風邪に関連した学校の欠席がわずかに減った。

鼻洗浄

・システマティックレビューの条件を満たした5件の臨床試験を対象に解析。

・6~10歳の子どもを対象とした臨床試験では、生理食塩水による鼻の洗浄は、通常のケアや鼻スプレーと比べて急性上気道炎の症状を軽減する可能性がある。

・成人を対象とした臨床試験では、症状回復までの期間は減少したが、臨床的意義は認められなかった。

 ということは、「『風邪の予防』の有効性が証明されているサプリメントはない」という◯×クイズの答えは「×」になります。

クイズの答え:風邪の予防の有効性が、ランダム化比較試験やシステマティックレビューで証明されているサプリメントはある

効果が立証されていても…早合点に注意

 システマティックレビューで効果が立証されているサプリメントがあると知って、驚いた人もいるかもしれません。ですが、ここで、早合点してはいけません。

 システマティックレビューで有効性が証明されたサプリメントがあっても、その効果は100%ではありません。

 医薬品でも、効果が証明されている治療法を受けても、病気が治る人もいれば治らない人もいます。病気の予防法も同じです。例えばインフルエンザワクチンを打っても、インフルエンザにかかってしまう人はいます。

 臨床試験の結果は、その治療を受けた人と受けていない人で、それぞれ全体の効果の割合を比較して違いがあるかどうかを検証しています。

 ランダム化比較試験やシステマティックレビューの結果は、情報の信頼性が高いことは間違いありません。しかし、治療効果が高いことを短絡的に意味しているわけではありません。

 治療効果は、具体的な数値を読み込んだり、その患者さんの実際の治療において意味のあるものなのかを吟味したりする必要があります。

 さらに、その施術や療法を実施するにあたっては、科学的裏付け(科学的根拠=エビデンス)以外にも、経済的負担はないか、実施にあたって不快感などはないかなども考慮して、総合的に判断していく必要があります。

 ですので今回、臨床試験の結果をご紹介したのは、とりあげたサプリメントなどの利用を推奨するものでも、逆に否定するものでもありません。風邪の予防や治療について、ご自身の意思決定の判断材料の一つとして頂ければ幸いです。

【参考資料】

1)Vitamin C for preventing and treating the common cold(Version published: 31 January 2013)

日本語訳:https://www.cochrane.org/ja/CD000980/bitamincniyorufeng-xie-noyu-fang-oyobizhi-liao別ウインドウで開きます

2)Garlic for the common cold(Version published: 11 November 2014)

日本語訳:https://www.cochrane.org/ja/CD006206/feng-xie-nidui-surugarituku別ウインドウで開きます

3)Echinacea for preventing and treating the common cold(Version published: 20 February 2014)

日本語訳:https://www.cochrane.org/ja/CD000530/feng-xie-noyu-fang-tozhi-liao-niokeruekinasea別ウインドウで開きます

4)Probiotics for preventing acute upper respiratory tract infections(Version published: 03 February 2015)

日本語訳:https://www.cochrane.org/ja/CD006895/ji-xing-shang-qi-dao-gan-ran-zheng-woyu-fang-surutamenopurobaioteikusu別ウインドウで開きます

5)Saline nasal irrigation for acute upper respiratory tract infections(Version published: 20 April 2015)

日本語訳:https://www.cochrane.org/ja/CD006821/ji-xing-shang-qi-dao-gan-ran-zheng-nidui-surusheng-li-shi-yan-shui-niyorubi-xi-jing別ウインドウで開きます

<アピタル:これって効きますか?・その他>http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku/(アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 島根大学・教授

島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、内閣府消費者委員会専門委員(特定保健用食品の審査)も務める。