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 先月、約1週間、上京する機会がありました。前回の記事に書いた、リンパ管細静脈吻合(ふんごう)術の検討と重粒子線専門病院での定期検査が目的です。その結果は別の機会にゆずることにして、今回はすこし視点を変え、私の日常から「ハンデを越えるためのひと工夫」をご紹介したいと思います。

 福岡の自宅から千葉の病院までは、6時間の道のりでした。大好きな飛行機にも乗れるワクワクで、足取りは軽やかです。しかしながら、骨盤にできた小児がん(ユーイング肉腫)を治すために照射した重粒子線によって、私の骨盤は弱く・もろくなってしまいました。従って、普段からあまり長い時間座っていることができません。

 そのことを自覚したのは、最初に骨盤を骨折した2014年秋のことでした。それまでは、転倒や衝撃に気をつけるように言われていただけで、座位時間の制限は必要ないというのが主治医の見解だったのです。腰に負担がかからないようにと心がけていた中での骨折に、今後の生活を憂えたのは言うまでもありません。

骨盤への負荷、仰向けだと25%

 人の身体は、立った姿勢で骨盤にかかる負荷を100%とすると、座位では140%へ増大し、仰向けで寝ている姿勢では25%まで減少すると言われています。私の場合、座る時間が長くなるほど腰に無理をさせてしまうようで、連続座位3時間くらいが安全なラインだということが分かってきました。

 ということは、関東までの6時間の道中どころか、日々の仕事や日常の外出さえも、ままならず、不自由な場面が多々あることに気付かされたのです。骨折した当初は、「たった3時間では何もできない・・・。」と引きこもっていた時期もありました。けれども、ずっとそうしているわけにもいかないし、やりたいことだってたくさんあります。切迫した現状に直面する中、どうすれば腰に負担なく、今までと変わりない活動を取り戻せるのだろうかと考えました。

 たどり着いた答えは、とても単純なものでした。座りつづけることができなければ、休み休み座ればいい! そう発想を変えることで、途端に道が開けてきた気がします。

 ただ横になって腰にかかる負荷を逃がしてあげる、座りつづけない。そんな些細(ささい)な工夫だけれど効果は絶大で、引きこもっていたのがうそみたいに、今までに近い日常を取り戻すことができました。

空港では救護室利用 連続で座る時間を短縮

 今回の道中であれば、自宅から福岡空港への移動手段を自動車にすることで、往路ではチェックイン前に、復路では運転の前に腰を伸ばすことができます。また復路では、羽田空港の救護室を利用させていただくこともプランに入れていました。そうすることで、連続座位の時間が細切れとなり、長旅でも無理なく乗り切れます。

 はじめは、急病でもないのに救護室を使うことや、それを前提とした旅程を組むことに気が引けなかったわけではありません。けれども、無理なく座れる時間の中で何かをしようと思えば、結局は何もできずに終わってしまいます。

 自分の世界を広げるためには、どう工夫すればよいのかと考えた結果、前向きな策として行き着いたものでした。移動と移動の間に休んだり移動と用事の間に休んだり、行く先々で少し横になれる場所と時間を確保するというひと工夫で、私の行動範囲は大きく広がったのです。

 病気をきっかけに歩けなくなり、電動車いすに乗っている私ーー。○○をしたいと思いたったとき、障害を理由に諦めざるを得なかったことは一度や二度ではありません。理不尽な出来事を前にして、落ち込むこともありました。しかし、今では、それなりに自由に暮らせています。振り返れば車いす歴15年、ちょっとした発想の転換や小さな工夫の積み重ねが〝今の自由〟につながっているのかもしれません。

<アピタル:彩夏の〝みんなに笑顔を〟>

http://www.asahi.com/apital/column/ayaka/(アピタル・樋口彩夏)

アピタル・樋口彩夏

アピタル・樋口彩夏(ひぐち・あやか)

1989年、東京生まれ。中学2年の時、骨盤にユーイング肉腫(小児がん)を発症。抗がん剤、重粒子線などの治療を経て、車いすでの生活に。「いつ、誰が、どんな病気や障害をもっても、笑顔で暮らせる日本にしたい!」を目標に日々、奮闘中。当事者の視点から建設的に伝えることをモットーに執筆・講演も行っている。