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 奴(やっこ)に切っておかかをのせ、しょうゆをかければ立派な一皿。今の季節なら湯豆腐で。グラタンにしてもおいしいし、マーボー豆腐は鉄板だ。豆腐ほど守備範囲が広い食べ物は、他にないかもしれません。

 ただ、あまり日持ちがしないのが悩ましい。豆腐を買っておくと心強くはあるのだけれど、「冷蔵庫の豆腐、早く使わなくては」とプレッシャーを感じる時もあります。そんな豆腐の世界に、1月下旬、常温保存可能な製品が登場したと知り、発売した森永乳業を訪ねました。

 紙パック入りで、「森永 絹ごしとうふ」と「お料理向き 森永とうふ」の2種類があります。常温のままで賞味期間は製造後195日(6.4カ月)。

 なぜ常温で長く保存できるのか。担当する、同社市乳統括部市乳マーケティンググループの清水かおりさんによると、「ロングライフ製法と6層構造の紙パックがポイントです」。

 ロングライフ製法とは、食品と容器を別々に殺菌し無菌で充填(てん)することで、保存料や防腐剤は使わずに長期保存ができる技術。ロングライフ牛乳の技術を応用しているのだそうで、かつ「大豆のデリケートな風味を逃さず加熱処理しています。そのあたりの製造方法は特許で詳しくお話できないんですが・・・」とのこと。一方、紙パックはポリエチレンと紙の層の間にアルミ箔(はく)をはさんでおり、空気や光を遮断して変質を防ぎます。

 この豆腐、まったくの新商品というわけではなく、今から30年前、1989年から販売されていました。ただ、これまで豆腐は冷蔵販売するよう国が義務づけていたため、冷蔵商品として売られていたのです。海外では同種の商品が以前から常温で販売されていました。

 昨年、豆腐に関する国のルールが変わり、無菌充填豆腐なら常温販売できることになりました。無菌充填豆腐は、加熱殺菌した豆乳に殺菌・除菌した凝固剤を入れ、専用の包装容器に無菌で詰めて加熱し固めたもの。つまり、無菌状態の材料を容器の中で固めた豆腐です。森永乳業の豆腐もこの分類に入ります。

 海外での流通実績があることや、災害時の緊急物資など新たなニーズにも対応可能などとして2014年に業界団体が厚生労働省に規制緩和を要望。食品安全委員会のリスク評価などを経て、昨年、豆腐の規格基準が改定されました。このルール変更を受け、同社は常温保存での賞味期限などを見直した上で、新発売したのです。

 試食させてもらいました。「絹ごしとうふ」は大豆の香りが立って、なめらか。まさに、絹ごし。ロングライフ牛乳が一般の牛乳とは若干風味が違うごとく、普通の豆腐とは違いがあるのではないかと思っていた予想が外れました。「お料理向き」は、原材料に大豆のほか大豆たんぱく質を加えてあり、絹ごしの食感だけれど固めでしっかり。「水切りの必要がなく加熱調理しても崩れません。鍋料理や炒めものなどにお薦めです」と清水さん。

 「冷蔵庫のスペースを気にせず置いておけますし、災害に備えて備蓄できます。非常時の食事は炭水化物ばかりになりがちですが、貴重なたんぱく源になるのではないでしょうか」と話します。災害で気持ちが動転して、硬いものや乾いたものが食べづらくなってしまった場合も、豆腐なら軟らかくて水分もあって、口にしやすいかもしれません。紙パックの上を切り取って、そのままスプーンですくって食べることもできそう。また普段でも、買い物に出づらい人がまとめ買いしておいても良さそうです。

 他の豆腐と差別化をはかる方針で、スーパーなどでは販売せず、宅配専用の商品としています。希望小売価格は1ケース(12丁入り)1740円(税別)。また、大豆加工食品製造販売の「さとの雪食品」も、今年9月を目標に常温保存可能な豆腐を発売する計画にしています。

 従来、豆腐は遠くに持ち運びができず、地元で作って地元で消費されている食べ物でした。広域流通が発達し、マーケティングが進み、商品の幅が広がっています。例えば絹ごしでも、同じメーカーで硬さも味も姿も色々なラインアップがあります。定番の木綿、絹ごしの他にも、寄せ豆腐、おぼろ豆腐、湯葉入り、麺やスイーツタイプ、クリームチーズのような商品、などなど。

 余談ですが、木綿豆腐は、豆乳に凝固剤を加えて固めたものをいったん崩してから、布を敷いた型箱に入れ、重しをかけて水分を切りながら押し固めて作ります。一方、絹ごし豆腐は豆腐に凝固剤を加え、そのまま型箱で固めます。

 容器に水が入っておらずプリンのようにすきまなく容器に豆腐が詰まっているものは、充填豆腐と言います。凝固剤入りの冷たい豆乳を小分けの容器に流し入れて密閉した後、加熱して固めたもの。1960年代に開発された新しい作り方で、量販店の発達で普及しました。大きな型箱か個別の容器かの違いはあっても豆乳の水分を絞らず固めるという点では絹ごしと共通で、「充填絹ごし豆腐」とも呼ばれます。絹ごし豆腐の類縁というところでしょうか。密閉後に加熱するため、従来の豆腐に比べると日持ちがよいのも特徴。今回の無菌充填豆腐は、厳しく管理した材料と製造工程で、この特徴をさらに伸ばした商品とも言えます。

 街の小規模な店が作るできたて豆腐の味わいも捨てがたいとは思いつつ、常温保存の豆腐が普及していくと、またこれまでとは違った豆腐の活用方法が出てくるのかもしれないと感じています。

<アピタル:食のおしゃべり・トピック>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/eat/

(大村美香)

大村美香

大村美香(おおむら・みか) 朝日新聞記者

1991年4月朝日新聞社に入り、盛岡、千葉総局を経て96年4月に東京本社学芸部(家庭面担当、現在の生活面にあたる)。組織変更で所属部の名称がその後何回か変わるが、主に食の分野を取材。10年4月から16年4月まで編集委員(食・農担当)。共著に「あした何を食べますか?」(03年・朝日新聞社刊)