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 仕事のなかで怒りがわいたとき、うまく受け流して自分を保つことができれば良いこともあれば、あえて怒るという選択をすることもあります。

 ここでいう怒ることは、感情に任せて怒鳴り散らしたり、相手を攻撃したりすることではありません。アンガーマネジメントでは、怒ることは自分の感情を言葉で伝え、相手にこうしてほしい、これはやめてほしいとリクエストすることです。相手の人格を否定したり、一方的に攻撃したりせず、「私」を主語にして自分の気持ちや要望を伝えます。

 さて今回は、同僚の対応が気になった場面です。

 介護施設で働くAさんは、同僚の言葉遣いが気になってしかたがありません。

 「同じ職場の一部の職員が、入所者を『○○ちゃん』と呼んだり、『ほら、お茶がこぼれちゃったよー』『ダメじゃないの』などと大きな声で指摘したりして、タメグチや子ども扱いするような態度が気になるのです。若い職員も影響されて言葉遣いが乱れてきて、一緒に働くことが苦痛です」

 

 職員の言葉遣いが気になってイライラするという話を多くの介護施設で耳にします。「ちゃん付け」「あだ名」といった呼称の問題や、赤ちゃん言葉・幼児言葉だけでなく、タメ語、命令口調など、言葉遣いにまつわる課題は多岐にわたります。

 

 怒りは、自分の価値観や自分にとって理想的な状態と現実とのギャップによって生じるといわれています。言葉遣いが乱れていることに怒りを感じる背後にある価値観として、入所者には敬語で対応すべき、高齢者を敬うべき、子ども扱いすべきではない、などが考えられます。

 一方で、価値観はすべての人に共通というわけにはいきません。例えば、親しみを込めて呼ぶべき、入所者が希望しているので尊重すべき、堅苦しい敬語よりもわかりやすい言葉を選ぶべき、などの考えもあるのかもしれません。

 

 また、言葉遣いだけで対応の善し悪しを決められるわけではありません。たとえ丁寧な言葉遣いをしていたとしても笑顔がなく堅苦しい対応では、冷たい印象を与えてしまうかもしれません。多少くだけた言葉を使うなかでも入所者との関係性を深め良質な介護を提供しているという人もいるでしょう。

 年配者を子ども扱いする対応を容認するわけではありませんが、どのような対応にせよその人自身は良かれと思ってそうした対応を選んでいるのであり、人の価値観は、正解も不正解も簡単に決めることはできません。

 

 こうしたモヤモヤに対処する方法の一つは、「割り切る」ことです。

 人にはそれぞれのやり方があって、必ずしも同じようにしなければならないというものでもありません。ほかの人がどのような対応をしていても、私は「ちゃん付けはしない」「いかなるときも敬語で接する」と割り切れるのであれば、周囲の対応がそれほど気にならず怒りが湧いてくることもないでしょう。

 それでもやっぱり気になってしまうとしたら、それは施設全体をより良くしたい、同僚にも変わって欲しいという期待とも捉えることができるのです。これが全く関係のない別の施設のことなら気にならないでしょう。一緒に働いているからこそヤキモキするのではないでしょうか。

 

 このような状況であれば、自分が気になっていることや自分の考えを「伝える」という方法を選択することもできます。一対一では伝えにくいという場合は、ミーティングの時間などを利用して、チームで話し合うことを提案してみてもよいでしょう。

 これは価値観の違いを意識して、話し合うプロセスです。一方的に相手の対応を否定したり非難したりするのではなく、「私はこう思う」という自分を主語とした意見を述べることがポイントです。

 「私は丁寧な言葉遣いや大人としての対応を大事にしたいと思います」

 「もし入所者は気にしていなくても、ご家族が聞いたら不快に思われるのではないかと心配です」

 「私は皆さんの意見も聞いてみたい」

 皆が同じ意見でなくても良いのです。多様な考え方があるなかで、歩み寄るきっかけがつかめれば、少しずつ職員の言葉遣いが変化していくのではないでしょうか。

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 このコラムでは、医療や介護の場面を取り上げながら、怒りやイライラといった感情との付き合い方を紹介しています。

 

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◆編集部から

<田辺さんの本が出版されました>

 タイトルは『ナースのためのアンガーマネジメント 怒りに支配されない自分をつくる7つの視点』(メヂカルフレンド社)です。(詳しくは https://www.medical-friend.co.jp/biblioDetail.php?b_id=1100別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/

 (アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。