[PR]

 このコラムでは、ADHDに悩む30代の新米ママ・リョウさんのお話を続けています。

 前回までに、育児に疲れ果てたリョウさんは、まったく育児に参加しない夫とケンカをして、子どもを抱えて家を飛び出しました。途方に暮れて訪ねた児童館で泣いていると、保健師が声をかけてくれたのでした。

 保健師は、リョウさんの家庭不和の背景に、赤ちゃんの夜泣きの問題があることを察しました。そこで、リョウさんに赤ちゃんの睡眠について、詳しく話し始めました。リョウさんは、夫のことはしばし忘れて、保健師の話に聴き入っていました。

 保健師はリョウさんに、赤ちゃんの睡眠の三つの特徴について話してくれました。それは、次のような内容でした。

 1. 脳が未熟で眠りが浅く、一晩のうちに何度も覚醒する

 2. 自分の力で眠りにつくことが苦手な赤ちゃんもいる

 3. 眠りにつくことに恐怖や退屈さを感じる赤ちゃんもいる

 

 リョウさんは、我が子が夜中何度も起きてはその度に泣く理由が少しわかったような気がしました。たしかに、夜中に起きて泣く回数や間隔はほぼ一定です。きっと一晩に何回か眠りの浅くなっているサイクルで、起きてしまっているのでしょう。それが、ごく自然なことだと知って、少しだけホッとしました。

 でも、まだ腑(ふ)に落ちない点が多くありました。

 リョウさんの娘は、寝るのが怖いのでしょうか? それとも退屈だと感じているのでしょうか……。確かに、娘は日中でもいつも刺激をもとめてじっとしていない、退屈嫌いの子どもではありました。でも、それなら泣かずに起きていればいいものを、リョウさんの娘は泣き続けるのです。リョウさんは、娘が「眠りたいのに眠れないから泣いている」ようには思えませんでした。「もっと激しい何かを訴えている」という気がしてならなかったのです。そこで、その思いを保健師にぶつけてみました。

 保健師「お母さんの直感って当たるのよね。実はね、夜泣きがすでに続いている場合には、赤ちゃんの睡眠の三つの特徴に加えて、もう一つ、夜泣きを助長している大切な要素があるの。それは、寝かしつけの習慣よ。おかあさん、寝かしつける時って、いつもどうしてる?」

 リョウさんは、よく閲覧するネット情報で学んだ「絵本を読む」「部屋を暗くする」「リラックスできるマッサージをする」「赤ちゃんを優しくトントンする」あたりのことは、すでに実践していることを伝えました。

 保健師「じゃあ、赤ちゃんが夜泣きするときは、どう?」

 リョウ「すぐに抱っこです。それでもだめなときはおっぱいです」

 保健師「そうよね。おっぱいをあげたり、抱っこしたり、絵本を読んだりって、寝かしつけるときによくやるわね。こういうのを『入眠儀式』というのだけれど、実は、日本の伝統的な寝かしつけ方法の多くは、世界では『不適切な入眠儀式』 と言われているの」

 リョウ「え……。どういうことですか?」

 保健師「赤ちゃんて、眠る前に何かを与えてもらっていると、それがないと眠れなくなってしまうことがあるの。『眠る=○○がもらえる』という結びつきを学習してしまうのね。だから泣いて『ちょうだい~』と訴えるの。特におっぱいや抱っこのように、無力な赤ちゃんの命に直結するようなものほど、強く結びつきを学習してしまうみたい」

 リョウ「そうなんだ……。最近は抱っこだと全然だめで、おっぱい飲ませながら寝かしつけることが多いんですけど、寝たかなと思って口から離すとまた泣き出すんです。おっぱいを飲んで、うとうとしていることを楽しんでいるみたいで、ちっとも寝なくて……。そう、だからますます主人にも頼めなくなってるんだった」

 保健師「なかにはね、『泣けば欲しいものがもらえる』と赤ちゃんが学習してしまうこともあるのよ。1歳を超えても何度も目を覚まして泣く子どもに、ミルクやバナナなどを与えていくうちに、最後にはパンを食べるようになった例もあるの。こうなると、もう夜泣きと呼ばずに、世界的には睡眠障害といわれてしまうのよ。厳密にいえば夜泣きも睡眠障害の一種だとみなされているんだけどね」

 リョウ「怖い……。うちの子もそうなるんでしょうか」

写真・図版 

 伝統的な寝かしつけの方法の数々が、一部の赤ちゃんにとっては夜泣きを誘発していたとは……。リョウさんには衝撃の事実でした。

 リョウ「じゃあうちの子は、『寝る=おっぱい、泣けばもらえる!』って学習しちゃってるわけ?」

 心の中で考えながら、リョウさんはふと、自分に置き換えて考えてみました。

 リョウさんは妊娠するまでは、大のお酒好きでした。毎週金曜日の仕事終わりには、夫とふたりでワインを飲んで解放感を味わっていました。妊娠してからはお酒はやめていますし、今は仕事もしていません。にもかかわらず、今でも金曜日の夜になると、なんとなくワクワクした解放感を思い出すのです。

 そうです。「金曜日の夜=ワイン・仕事からの解放感」という結びつきが脳にできていたのです。

 リョウ「赤ちゃんなのに大人と同じように、学習するんだ……」

 

 リョウさんの不安そうな気持ちを察したのか、保健師はこう言いました。

 保健師「お母さん、大丈夫よ。ちゃんと対処法があるの。それに、パパも一緒にできる方法なのよ」。リョウさんは、娘の夜泣きをやめさせることができるのでしょうか? そして夫との関係は修復できるのでしょうか? このお話は次回に続きます。

 

 <お知らせ> ネットでさまざまなお悩みを相談できます

 このコラムの筆者の中島が、北九州市にある精神科クリニック「かなめクリニック」にて、今年3月からオンライン診療を担当しています。診断の有無にかかわらず、インターネットを用いて認知行動療法などのカウンセリングを行います。ご相談内容は、ADHDに限らず、気分が落ち込んで引きずってしまう、不安でたまらない、食べ過ぎや飲み過ぎ、薬に依存してしまう、性犯罪に関するものでも幅広くお引き受けします。ご家族からの相談も受け付けます。みなさまのご相談をお待ちしております。

 ※要予約・有料で、自費診療となります。すでに医療機関にかかっていて、主治医や担当カウンセラーのいる方は、許可を得た上でお申し込みください。

https://clinics.medley.life/clinics/5a0b9ff5c5ff1c41a771c238別ウインドウで開きます

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/

(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。