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 先日、国が子連れ出勤を後押しする方針を打ち出しました。宮腰光寛少子化担当相は導入する企業を視察した際、「赤ちゃんの顔が幸せそう。乳幼児は母親と一緒にいることが何よりも大事ではないかと思う」と記者に語ったそうですが、本当に子連れ出勤は親と子にとって幸せなのでしょうか。

 両親が、子どもの預け先をどうしても見つけられない時があります。保育園の空きがない、保育園に通っているけれど病気になってしまった、病気は改善したが登園基準を満たさないなどといった際に、緊急避難的に子連れ出勤をしなくてはいけないことがあるかもしれません。

 ただ、日常的になるとどうでしょうか。子どもの安全を守るためにしなければならないことは、実はたくさんあります。未就学児の通う保育施設は、子ども・子育て支援法、児童福祉法などさまざまな法律で安全を確保するように定められています。

 前回のコラムでは、乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクとして知られるうつぶせ寝について書きました(https://www.asahi.com/articles/SDI201901279138.html)。保育園では、子どもがお昼寝をしているとき、「定期的に子どもの呼吸・体位、睡眠状態を点検すること等により、呼吸停止等の異常が発生した場合の早期発見、重大事故防止のための工夫をする」という事故防止ガイドラインもあります。

 私が園医をしている区立保育園は、子どもがどの向きで寝ていても5分ごとに呼吸状態を確かめています。子連れ出勤をした場合、子どものお昼寝中にこんなことをしながら仕事ができる職場はまずありません。

職場は子どもが過ごすのに適した場所?

 睡眠のほかにも、問題はたくさんあります。職場には、保育園のように子ども1人に対して何平方㍍と定められているはずのスペースはなく、月齢に合わせ体を使った遊びのできるような備えもないでしょう。外遊びや散歩に連れ出すこともできません。

 さらに、通勤時の安全性はどうでしょう。都市部の場合、子ども連れで満員電車に乗ったり、人であふれる駅のホームや階段を歩いたりといったことを日常的にするのはとても大変なうえ、危険も伴います。

 それに、小さい子はすぐに風邪を引きます。具合が悪い時に、遊んだり休んだりするのに適していない場所で過ごすのは酷ですし、親も仕事中に体調の微妙な変化に気を配れるでしょうか。親の職場に連れて行かれる子どもの身になって考えてみてほしいものです。

 海外では、学生が子どもを連れて授業に出ざるを得ず、騒いでしまった時に先生が排除するどころか、自ら抱っこして授業を続けたという動画をいくつか見たことがあります。

 一方、日本はどうでしょう。熊本市議が赤ちゃんを議会に連れて行った際、大問題になりました。公務のついでに公用車で議員会館内の保育所に子どもを送迎していた国会議員は、総務省のルールでは問題ないとの見解でしたが、とがめられました。このような中で、子連れ出勤など本当に現実的でしょうか。

男性も育児の当事者に

 そもそも、子どもを生み育てるということについて女性だけの問題という意識が根強くあるようです。

 先日は、麻生太郎副総理兼財務相が、少子高齢化問題に絡み「年を取ったやつが悪いみたいなことを言っている変なのがいっぱいいるが、それは間違い。子どもを産まなかったほうが問題なんだから」と述べました(https://www.asahi.com/articles/ASM243SY1M24UTFK00R.html)。その後、「産める産めないの話じゃなくて、産まなくなっちゃったっていう事実があるという話をしただけ」と発言を撤回しました。

 麻生氏の発言は、「一部だけ切り取ったから誤解された」という人もいましたが、2014年にも同じ内容のことを言っています。

 「産まなかったほうが悪い」というニュースのタイトルを見た時、産まない方の性、つまり政治や制度を担ってきた男性が悪かったと反省しているのかと私は思いましたが、そうではありませんでした。政治家である自分を省みない、女性への過度な責任の押しつけと受け取れるもので、それが本音ではないでしょうか。

 少子化対策を行って成果を上げたフランスは、保育園のほか家で子どもを預かる「保育ママ」などのサービスを充実させ、育休中の親への手厚い保障や、経済的な支援も進めてきました。大胆な対策もせず、子連れ出勤を推進する程度で日本の少子化がなんとかなることはないでしょう。

 冒頭で触れた宮腰少子化担当相はその後、母親だけを対象としたものではないと釈明したようですが、当然ですね。「乳幼児は母親と一緒にいることが何よりも大事」という発言は、今の時代に合いません。両親という言葉は親が2人いるということで、親の責任は等価だと私は思います。そして、男性がもっと育児を積極的にやったら、育児の環境が劇的に改善することと考えます。「子どものことは母親」というつもりが父親側になかったとしても、実情を知らなければ当事者意識は持てません。

 育児のほとんどを担ってきた女性は、政府の見当違いな方針や政治家の放言に「またか」と無力感に陥り放置したくなります。男性も育児の当事者として一緒に問題解決にあたっていくことが、育児環境の改善につながると考えます。子どもの顔を見る時間も持てない長時間労働や、ベビーカーなどはもっての外の満員電車など、社会のあり方も変わることを期待します。

<アピタル:小児科医ママの大丈夫!子育て>

http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/(アピタル・森戸やすみ)

アピタル・森戸やすみ

アピタル・森戸やすみ(もりと・やすみ) 小児科医

小児科専門医。1971年東京生まれ。1996年私立大学医学部卒。NICU勤務などを経て、現在はさくらが丘小児科クリニックに勤務。2人の女の子の母。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(内外出版)、共著に『赤ちゃんのしぐさ』(洋泉社)などがある。医療と育児をつなぐ活動をしている。