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 「日本人の2人に1人が一生のうちに『がん』と診断され、3人に1人が『がん』で亡くなる」と言われています。およそ100万人が新たにがんと診断されたという発表もありました(※1)。多くの人にとって、自身や、家族・友人ががんになっている時代です。今回は、がんという病気と向き合うために知っておいてほしいことをご紹介したいと思います。

◯×クイズ:ランダム化比較試験で効果が証明されている健康食品・鍼灸(しんきゅう)・ヨガなどの「補完代替療法」はない
(※答えは、本文中にあります)

▼薬の効果に関する最も信頼性の高い情報は、ランダム化比較試験による結果である

▼ランダム化比較試験によって効果が立証された治療法をおこなっても、病気が治る人・治らない人がいる

▼補完代替療法に関しても、ランダム化比較試験による検証が進められつつある

 2月2日から公開されている映画「がんになる前に知っておくこと」にて、筆者はなんと銀幕デビューを果たしました。この映画を企画したプロデューサーの上原拓治さんは、4年前に義理の妹をがんで亡くしています。そのときの経験を踏まえ、がんを恐れるのではなく、知ることから始めたいという思いから本作の製作を決意したそうです。

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 がんについての正しい情報はどこで得られるのか。がんの治療法にはどのようなものがあり、どう選べばいいのか。身体や心の痛みはどうしたら軽減できるのか。そして、がんになった時、人は何を感じ、想(おも)い、どのように生きていけるのか…。

 誰もが、いつがんになってもおかしくない時代に「後悔のない選択をして、自分らしく生きて欲しい」。そんな願いから生まれたドキュメンタリーです。(映画公式サイトより※2)

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 映画の詳細はぜひ足を運んで見ていただきたいのですが、筆者は「薬が効くと言うためには、どのような裏付けが必要なのか?」「標準治療の位置づけは?」「補完代替療法は効くのか?」などについて解説しています。

「薬が効く」というために必要な裏付けは?

 薬が効くかどうかの裏付け(根拠)には、信頼性の高いものと低いものがあります。薬が効くかどうかの裏付けを専門用語で「科学的根拠(エビデンス)」といいます。その科学的根拠は検証方法によって情報としての正確さが異なってきます。

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 情報としての正確さが高い科学的根拠に、「ランダム化比較試験」があります。さらに高いのは、その試験を複数とりまとめて再評価した「システマティックレビュー」です。

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 ランダム化比較試験では、偏り(バイアス)や偶然の入り込む余地が、他の研究デザインと比べて低くなっています。対象者をランダムに分けて、片方には新しい治療法、片方にはこれまでの治療法をおこなって、結果をみるわけです。

 ランダム化比較試験の結果は再現性・普遍性が担保されていることになります。つまり、ある研究者が実施したランダム化比較試験の結果は、他の研究者が実施しても同じような結果になる可能性が高いというわけです。

 新しい治療法が「医薬品」として正式に認められるためには、このランダム化比較試験によって有効性が立証される必要があります。

「標準治療」ってなに?

 がんなどの治療過程で、「標準治療」という言葉を聞いたことはありますか?

 「標準」という言葉が「並の」「普通の」という意味合いで使われているため、患者さんやご家族が「標準治療以外に特別な最高の治療法があるのではないか」と誤解されているケースがよくあります。

 標準治療は、ランダム化比較試験によって有効性が立証されている治療法の中で、副作用といったさまざまな視点を踏まえ、多角的に評価して、「最も多くの人に推奨される治療法」と考えてください。

 抗がん剤では、「現時点で最も治療効果が高い」「治療効果は同程度だが副作用が少ない治療法」などと言った意味合いであると理解していただいて差し支えありません。

 つまり標準治療でもない、ランダム化比較試験で効果が立証されていない治療法は、「効くかどうか分からない」と考えてください。

 ただし、ランダム化比較試験で効果が立証された治療法であっても、完全無欠というわけではありません。さきほどのランダム化比較試験の結果がどうなったのか、グラフの中の「病気が治る割合」の部分に注目して見てみましょう。

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効果が100%の治療法はない

 ランダム化比較試験で効果が立証された治療法であっても、100人が治療を受けて100人全員が治るわけではありません。今後、医学が進歩したとしても解決の難しい現実です。

まったく効かない治療法はない

 一方で、「プラセボ効果」という言葉を聞いたことがありませんか?

 比較する対照群として、有効成分が含まれていない「プラセボ」を使っても、症状が改善したり病気が治ったりすることがあります。

 また、非常に稀(まれ)ですが、自然に消えていくがんがあることも報告されています。どんな治療法でも、プラセボ効果や自然治癒力で症状が改善することはありえるわけです。ですから、治療効果の解釈で、薬の本当の効果は、下図に示すようなものになります。

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 「標準治療」の言葉の意味は、「現時点では最も多くの患者さんにとって優れた治療法だが、残念ながら全員の病気が治るわけではない」ということになります。

「補完代替療法」は効くのか?

 がん患者さんの多くが、健康食品、鍼灸(しんきゅう)、ヨガなどの補完代替療法を利用しています。実は、この補完代替療法の効果もランダム化比較試験で立証されているものがあります。ですから、「◯×クイズ」の答えは「×」になります。

クイズの答え:ランダム化比較試験で効果が証明されている補完代替療法はある

 米国医学図書館が運営している学術論文のデータベース(PubMed)で、がんの補完代替療法に関するランダム化比較試験の報告数をグラフにすると、それこそ右肩上がりで増加してきています。

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補完代替療法の「効く」は「がんがなくなる」ではない?

 ただし、ランダム化比較試験で証明された「効果」については注意が必要です。

 「効果」と聞くと、「がんが小さくなる」「がんが消えてなくなる」「長生きできる」と考える人が多いかもしれませんが、補完代替療法については少し様子が異なります。

 補完代替療法に関するランダム化比較試験の報告を読み解くと、がん患者さんの身体的・精神的症状を改善したり、手術・抗がん剤・放射線治療による副作用を軽減したりといった効果は明らかになってきていますが、がんに対する直接的な治療効果は現時点では立証されていません。

 厚生労働省も、患者さんのQOL(生活・人生の質)を高める医療として「統合医療」を提唱しています。近代西洋医学を前提として、有効性が立証された補完代替療法を組み合わせる医療のことです。

 筆者も、厚生労働省の委託事業として、補完代替療法に関するランダム化比較試験の結果などを分かりやすく紹介するサイト作成(※3)に関わっています。

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 興味のある方はアクセスしてみていただけると幸いです。

 今回紹介した映画「がんになる前に知っておくこと」は、新宿K's cinemaでの2月16日(土)10時の回の上映終了後、筆者と監督でトークイベントを行います。会場からの質問にも可能な範囲でお答えできればと考えています。もし、お時間があえば、お越しいただけるとうれしいです。

【参考資料】

1)国立がん研究センター「がん情報サービス」:最新がん統計[更新日:2019年01月21日]

https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html別ウインドウで開きます

先日、厚生労働省は2016年に全国で新たに「がん」と診断された患者が約99万5千人、2017年に「がん」で死亡した患者が約37万3千人であったことを公表しました。

2)「がんになる前に知っておくこと」公式サイト:http://ganninarumaeni.com/別ウインドウで開きます

3)厚生労働省「統合医療」情報発信サイト:URL:http://www.ejim.ncgg.go.jp/別ウインドウで開きます

<アピタル:これって効きますか?・その他>http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku/(アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 島根大学・教授

島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、内閣府消費者委員会専門委員(特定保健用食品の審査)も務める。