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 怒りがわいたとき、受け流すという対処もありますが、あえて怒るという選択もあることをお伝えしてきました。怒るとは、感情に任せて怒鳴り散らしたり、相手を攻撃したりすることではありません。自分の感情を言葉で伝え、相手にこうしてほしい、これはやめてほしいとリクエストすることです。言わなければ、相手に伝わりません。改善して欲しいことがあれば、上手に伝えることも怒りへの対処として有効です。

 とはいえ、上手に伝えるためには、そもそも自分はなぜ怒っているのか、その理由をハッキリさせる必要があります。

 今回は、介護の場面での「報告・連絡・相談」をめぐるイライラを例に考えてみます。

 報告・連絡・相談、いわゆるホウレンソウは重要な業務です。「いま、忙しいのだからあとでまとめて報告して!」「なんでもっと早く相談してくれなかったの?」と、ホウレンソウにまつわるイライラは数知れません。その出来事を分析してみると、これがなかなか奥深い。

 ユニットリーダーのAさんはスタッフのBさんからの報告・連絡・相談が嚙み合わないことに苛立っています。

Bさん「病院の受診に出かけていたCさんが帰ってきました。看護師に報告したほうが良いでしょうか」

Aさん「何か異常があったの?」

Bさん「いつもどおりです。同じ薬が処方されたそうです」

Aさん「それなら、申し送りのときにまとめて報告してください」

 

Bさん「Cさんの付き添いの家族がそろそろお帰りになるそうです」

Aさん「それで? 何か用件があるのですか?」

Bさん「家族が帰る前に何かお伝えすることはありますか?」

Aさん「これから食事の時間で忙しいの。いちいち報告しなくていいから!」

 

 そして申し送りの時間。

Bさん「Cさんが昼食の時にむせ込んでいました」

Aさん「すぐに看護師を呼んで対応してもらったの?」

Bさん「いえ。看護師に連絡するかどうかをここで相談してからと思いまして」

Aさん「誤嚥(ごえん)して肺炎にでもなったらどうするの!そういう時はすぐに看護師に連絡してよ!」

 

 Aさんは、ささいなことに呼び止められて仕事が中断するたびにイライラ。そうかと思えば、急を要する場面では呼ばれない。Aさんは、Bさんが報告・連絡・相談の判断を的確にできないことに苛立っています。

 

 ここで、なぜ怒りが生じるのかを考えてみます。怒りは自分にとっての理想的な状態と、理想どおりにいかない現実とのギャップによって生じます。こうした場面で緊急性や重要度の判断が、皆一様ならどんなに仕事しやすいかと思うでしょうが、なかなかそうはいきません。相手の判断とのズレに気づいたときに「こんな判断もできないのか」と怒りがわくのです。

 しかし、報告・連絡・相談の判断には経験や知識が影響しますし、そのときの忙しさで対応が変わる場合もあり一様にはいかないものです。

 

 Aさんには、急を要することでなければ申し送りの時にまとめて報告してほしい、忙しい時間帯に呼び止められたくない、などの思いがありました。一方で、高齢者が食事中にむせ込む状態は、誤嚥や肺炎のリスクが高く、その場ですぐに対応しなければならない緊急の事項です。勤務の終わる申し送りでの報告では、Aさんにとっては遅すぎるのでした。

 Bさんの立場ではどうでしょうか。入所者が病院へ受診したときには、異常の有無にかかわらず報告しなくてはならない、面会の家族が帰る前に家族に持ち帰ってもらうものや伝達事項などを確認しなければならないと考えていた可能性もあります。

 もしかしたら、以前に面会の家族が帰った後に「家族に渡すものがあったのにどうして帰る前に教えてくれなかったの?」などと同僚に言われた経験があるのかもしれません。また昼食前に忙しいと言われて、報告しづらくなってしまったのかもしれません。

 

 Aさんが報告・連絡・相談にまつわるイライラから解放されるためにできることは、自分の判断基準を明確にして、「理由」として添えながら相手に伝えていくことです。予定通りのことはあとでまとめて報告するのが当たり前と思っていても、状況によっては予定通りに終えたことを報告してほしい場合もあるし、異常なしという報告だけは先にほしい場合もあります。

 「初回の受診なら診察の内容や移動時の状況などを付き添いの家族に確認したいので、予定通りだとしても受診から戻ったことを知らせてほしいけれど、定期的な受診で異常がなければあとでまとめて知らせてもらえばいい」と自分の判断基準を伝えるのです。

 また、「食事でむせ込んでしまったら、命に関わる危険があり、その場で対応する必要があるからすぐにリーダーや看護師を呼んでほしい」というように、これは重要だということを、理由を添えてその都度伝えます。

 はじめは面倒だと思うかもしれませんが、イラッとしたときに自分はなぜ怒っているのだろうかと、自分に問いかけてみると、思考が整理されます。怒っている理由を添えることで、相手への伝え方も上手になります。

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 このコラムでは、医療や介護の場面を取り上げながら、怒りやイライラといった感情との付き合い方を紹介しています。

 

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◆編集部から

<田辺さんの本が出版されました>

 タイトルは『ナースのためのアンガーマネジメント 怒りに支配されない自分をつくる7つの視点』(メヂカルフレンド社)です。(詳しくは https://www.medical-friend.co.jp/biblioDetail.php?b_id=1100別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。