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 いわゆる悪玉コレステロールのLDLコレステロールが高い人は心筋梗塞(こうそく)などの心血管系の病気になりやすく、コレステロールを下げることでその確率を下げることができます。コレステロール値がすごく高かったり高血圧や糖尿病などの他のリスク因子があったりする人は治療の対象になります。生活習慣の見直しで改善しない場合は、まずはスタチンという薬による薬物療法がおこなわれることが多いです。商品名で言えば、メバロチン、リピトール、クレストールなどです。

 ところが、医師から治療をすすめられても拒否する患者さんがいます。そうした患者の姿勢を危惧して、アメリカ心臓協会が発行する雑誌をはじめとした主要な心血管系の医学雑誌が、共同である論説を出しました。その論説の冒頭には、こんな架空のやりとりが紹介されています。

 医師「ジョーンズさん、あなたの心臓発作に関係するリスク因子に基づけば、スタチンの内服をはじめることをおすすめします」

 ジョーンズ夫人「いいえ、先生。インターネットでその薬についてあまりにも怖いことをたくさん読みました」

 インターネットにおける日本語の医療情報にはかなり不正確なものが散見されますが、欧米でも似たような状況があるようです。もちろん、患者さんには自分が受ける医療を選択する権利があります。しかしながらそれは正確な情報が提供された上でのことです。薬の危険性をひどく誇張した誤った情報が広がっているせいで患者さんが適切な医療を受けることが妨げられてはなりません。インターネットだけの問題ではなく、他のメディアでも同じです。たとえば、日本でも週刊誌が「飲んではいけない薬」といった特集を組んでいます。

 論説ではスタチン拒否だけでなく、ワクチンに対する根拠のない懸念についても言及されています。MMRワクチン(麻疹・おたふくかぜ・風疹ワクチン)接種が自閉症を起こすという論文は撤回されたにもかかわらず、インターネットでは根拠のない反ワクチン情報にあふれています。これも、日本と海外で似たような状況にあるようです。

 薬で副作用が起きることもあれば、医療ミスが起きることもあれば、担当した医師が不親切で説明不足のこともあるでしょう。また、医療は不確実なので、適切な医療を行ってもなお、思うような効果が得られないこともあります。われわれ医療者はその点は改善し、患者さんの信頼を得られるよう努力していかねばなりません。しかし同時に、メディアやSNSでのニセ医学情報に対抗する必要があります。

 昔からニセ医学はありましたが、インターネットの発達でより容易に不正確な情報が広まりやすくなっています。主要な医学雑誌が共同で論説を出すという珍しい出来事の背景には、こうした時代への危機感があるのだと思います。

 ※参考 Medical Misinformation: Vet the Message!(https://www.ahajournals.org/circ/medical-misinformation別ウインドウで開きます

《酒井健司さんの連載が本になりました》

これまでの連載から80回分を収録「医心電信―よりよい医師患者関係のために」(医学と看護社、2138円)。https://goo.gl/WkBx2i別ウインドウで開きます

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。

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