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 トイレに入ったとき、ペーパーが使い切って芯だけになっていたり、ボックスティッシュの空箱がそのままゴミ箱につっこまれていたり……。こうした状況がいろいろと目について、怒ってしまう人はいませんか?

 怒りは自分が考えている理想的な状態と、そうはならない現実とのギャップによって生じます。自分の中の価値観が、怒りの引き金になるのです。この価値観は、人によってそれぞれ異なり、その人の考えや判断、行動に影響を及ぼします。自分にとっては当たり前に行っていることの背景にも、その人の価値観が影響しているのです。

 

 例えば、トイレットペーパーが使い終わって芯だけになっていてイラッとする人は、「トイレットペーパーを使い切ったら新しいペーパーを補充するべき」という価値観があるのかもしれません。

 ある人は、水道のまわりに水が飛び散っているのが嫌だといいます。自分が手を洗ったときに手を拭いたペーパータオルでシンクのまわりをさっと拭くと言う習慣があるのだそうです。

 ボックスティッシュでもマスクでも、空箱がそのまま捨てられていたらイラッとするという人もいます。紙の箱が空になったら、つぶして捨てる、あるいは細かく破いて捨てる人は自分のやり方と異なるのが気になるのでしょう。

 何事も開けっ放しが嫌と言う人もいるそうです。ドアが中途半端に開いている、ファイルが開きっぱなし、トイレの蓋(ふた)が開いている、というのが気になって、職場で「開けたら閉めて!」が口癖になっているというのです。

 

 このような状況にイラッとするのは、自分では当たり前と思っているのに、周りにはそう思っていない人がいるからです。しかし、こうした日常の行動を全て統一するのは不可能でしょう。またトイレットペーパーが使い切ってある状況に対して、イラッとする人もいれば、気にせず新しいペーパーをセットする人もいるし、水が飛び散っていたら自分は拭くけれど、ほかの人が拭かなくも気にならないという人もいます。

 

 怒りがわいたとき、その背景にある自分の価値観をみつめたり、他の人は何を大事にしているのだろうと思いをはせてみたりして、怒りを受け流す対処法もあれば、「私はこうしてほしい」と、あえて伝えることが必要な場合もある、という話をこれまでお伝えしてきました。ただ、ささいなことにいちいち「絶対にこうしなければならない」と怒ることは、不毛な気もします。

 いろいろと目について怒ってしまう人は、怒ることと、受け流すことを整理してみると良いでしょう。

 介護の場面では、利用者にとって心地よいやり方にあわせるという姿勢が求められます。職場の皆が守らなければならないルールもあります。仕事を円滑にするために、職員同士の考えをすり合わせることも必要です。このような、仕事を円滑にするためにルールを決めたほうが良いことや、後輩を教育するために必要なこと、利用者の安全や尊厳を守るために言わなければならないこと、といった「怒ること」と、自分のちょっとしたこだわりでほかの人に強要するものでない「受け流すこと」とを分けられると、不要な怒りを減らせるのではないでしょうか。

 利用者のため職場のためなら怒る、自分のこだわりなら怒らない、などの判断基準を持っておき、イラッとしたときには、その判断基準に照らして考えてみてはどうでしょうか。

 ちなみに「開けたら閉めて!」が口癖の職員も洗濯機の蓋は開けておくそうで、人の価値観はその場面や状況によって判断がかわります。自分では「絶対」と思っていても、例外があるものです。

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 このコラムでは、医療や介護の場面を取り上げながら、怒りやイライラといった感情との付き合い方を紹介しています。

 今回の事例の一部は、以下の書籍から引用しています。

・イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ(中央法規出版)https://www.amazon.co.jp/dp/4805853972/ref別ウインドウで開きます

・ナースのためのアンガーマネジメント 怒りに支配されない自分をつくる7つの視点(メヂカルフレンド社) https://www.amazon.co.jp/dp/4839216312/ref別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。