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 麻疹(はしか)だけではなく風疹も流行しています。妊婦さんが風疹ウイルスに感染すると「先天性風疹症候群」といって赤ちゃんにさまざまな合併症が生じます。代表的なものは白内障、先天性心疾患、難聴ですが、死亡することもあります。幸いなことに、風疹はワクチンで予防可能な疾患です。

 ところが風疹についてとんでもないフェイク情報を聞きました。「風疹は怖くない。ワクチンがない時代には乳幼児期に移しっこして終生免疫がつくから先天性風疹症候群は心配しなくてもよかった」というものです。この主張は以下の2点の事実に反しています。

1. ワクチンがない時代のほうが多くの先天性風疹症候群が発生していた。

2. 乳幼児期に感染しても風疹はときに脳炎などの重篤な合併症を引き起こす。

 米国では最後の大規模な風疹の流行があった1964年から65年にかけて、2万例の先天性風疹症候群、2100例の新生児死亡が発生しました。たしかに子どものころに感染すれば免疫がつきますが、そんなに都合よいタイミングで自然感染は起きません。周囲に既感染者が多ければ大人になるまで風疹に感染する機会がなく、妊娠したタイミングで風疹にかかることもあるのです。

 だったら「風疹パーティー」でもして子どものうちに意図的に風疹に感染させるのはどうでしょう。先天性風疹症候群に注目されることが多いですが、子どものころなら風疹に感染しても「比較的」軽症で済むとはいえ、それでも数千人に1人に脳症や血小板減少性紫斑病といった重篤な合併症を引き起こします。それに重篤な合併症が起きなくても発熱や発疹などの症状はつらいです。

 怖い病気だからこそワクチンが開発されたのです。「風疹が怖くない」などと言っていられるのは、ワクチンのおかげで風疹の発症が減っているからです。米国では69年にワクチンが利用可能になって以降、風疹の発症数は激減し、先天性風疹症候群も年間に数例以下になりました。その多くが海外で感染した症例です。

 風疹のワクチンの有効率は97%と言われていて、ワクチンを接種していれば97%は風疹にかかりませんが、逆に言えばワクチンを接種していても3%は風疹に対する免疫が付きません。しかし、周りの人がワクチンを接種していれば風疹は流行しませんので、そうした免疫が付かない妊婦さんも風疹から守られます。日本での風疹ワクチンの定期接種が、当初は女子中学生だけが対象だったのに、男女ともに接種するようになったのもそのためです。

 子どものころに風疹のワクチンを定期接種する機会のなかった40歳~50歳代の男性は抗体を持っている人が少なく、発症例も多いです。厚生労働省は対策としてこの世代の男性(正確には「昭和37年4月2日から昭和54年4月1日までの間に生まれた男性」)を定期の予防接種の対象者としました。無料で抗体検査およびワクチンを受けることができます。ワクチンの在庫が潤沢なら抗体検査なしでワクチンを接種してもいいのですが、いきなり増産するのは難しいのでしょう。

 成人が風疹にかかると症状が重いので、妊婦さんを風疹から守るだけではなく、自身のためにもなります。ちなみに私はMRワクチン(麻疹風疹混合ワクチン)を数年前に接種済みです。ワクチン接種後に100万~150万人に1人程度、脳症・脳炎が起きることもありますが、ここまでまれだとワクチンとの因果関係は不明です。症状が軽いとされる子どもでも自然感染で脳炎を起こすのは数千人に1人であることと比べてみてください。

 ワクチンの副作用を不安に思う方の気持ちはよくわかります。しかし、その不安につけこんだ「風疹は怖くない」などといったニセ医学情報にだまされないようにしてください。

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。

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