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 「あの健康食品ってがんに効くの?」

 そう患者さんが疑問や不安に感じていても、なかなか主治医には相談しにくいようです。患者さんや一般市民向けの講演会ではよく「健康食品のことを誰に相談すればいいのか」という質問を受けます。医療者自身もどう答えていいのか戸惑うケースが多いようです。そもそもなぜがん患者さんは健康食品などの「補完代替療法」に興味を持つのでしょうか? 医療者と患者は、どのようにコミュニケーションを図っていけばいいのか考えてみたいと思います。

▼患者さんが補完代替療法を利用する背景のひとつに、病気に対する不安がある

▼医療者は、患者さんが補完代替療法を利用してみようと思った背景にも気を配る必要がある

▼補完代替療法についての相談は、主治医の他にも窓口があることを知っておくことが大切

健康食品の利用、主治医に相談できず……

 「あの食べ物はがんに効く?そのウソ・ホント」

 これは2012年に朝日新聞が主催する「アピタルがん夜間学校」で筆者が講演を依頼されたときのタイトルです。実は、この講演がきっかけとなり、皆さんが今読んでくださっている「これって効きますか?」の連載がスタートしました。

 この連載では、健康食品をはじめとした補完代替療法に関する最新の話題を紹介する一方で、健康被害や経済トラブルなどの課題についてもとりあげています。そのため、補完代替療法をテーマとした講演会や研修会などで講師として声をかけていただくことが増えてきました。

 そして、昔も今も変わらず、患者さんには「健康食品のことを主治医に相談できず悩んでいる」という切実な悩みがあります。今回は、その悩みを少しでも解決・解消できればと思い、個人的な経験も踏まえ、一緒に考えてみたいと思います。

補完代替療法を利用する背景には何があるのか?

 そもそも患者さんは、なぜ補完代替療法に興味・関心をもつのでしょうか。がん患者さんを対象とした補完代替療法の実態調査によると、利用目的として挙げられているのは「がんの進行抑制」「がんの治癒」「苦痛症状の緩和」などがあります(※1)。また、最近報告された遺族調査によると「精神的な希望」を利用目的として回答しているケースも多いようです(※2)。

 「がんの進行抑制」を目的とした治療は病院で既に受けているにもかかわらず、なぜ患者さんは補完代替療法を利用してみようと考えるのでしょうか。筆者自身、診療の現場や講演会の質疑応答で、患者さんに理由を尋ねてみると、さまざまな答えが返ってきます。

 「自分でも何かできないかと思って」「免疫力をアップすれば、がんが治るかもしれない」

 「抗がん剤治療の副作用を少しでも減らしたくて」「体力をつけるために」

 「すこしでも体に良いことをしておきたい」「過去の生活習慣を反省して」

 なかには、「健康食品が効かないことは分かっているが、安心感を得るためのお守りがわりに利用している」という人もいました。

 筆者自身、これら一見するとバラバラに見える答えに、なにか共通の背景となる原因や理由はないのだろうかと考え込んだことがあります。そして、ある患者さんからの悲痛とも呼べる訴えが、もしかしたら答えになるのではないかと思い始めました。その訴えは「がんと診断されてから、具体的に何が不安なのかわからないけど、とにかく不安でたまらない」というものです。

 その不安を少しでも和らげるための選択肢の一つとして補完代替療法があるのかもしれません。これは裏を返せば今の医療現場は、患者さんの不安に対して十分な対応ができていないことを意味していることにもなります。患者さんが補完代替療法を利用してみようと考える原因は、突き詰めていくと、医療者側にあるのかもしれないのです。

 もちろん、すべての人が該当するわけではないと思います。ですが、補完代替療法を利用する・しないに関わらず、ほとんどの患者さんは、少なからず漠然とした不安や恐怖を感じていることは間違いないと思います。さらに、患者さん本人のみならず、家族も同じように不安にかられていると容易に想像がつきます。

 そのため、「家族のためになにかできないか」という思いから、補完代替療法を勧めることにつながる可能性が出てきます。事実、患者さんへの実態調査では、利用してみたきっかけとして最も多いのは、「家族の勧め」という結果もあります(※1)。

 そうなると、医療者としては、補完代替療法の相談に応じるには、患者さんのみならず、その家族にも対応していく必要がでてきます。

医療者として、どのように対応すればよいのか?

 最近、医療者側からも、補完代替療法の利用に関してどのように対応すればよいのかと相談を受けることが増えてきました。

 相談をしてきてくださる人の多くは、「頭ごなしに否定しても問題解決にはならないだろうし、でも、『自己責任でどうぞ』というのも医療者としては無責任に感じてしまう」と悩んでいるようです。

 筆者からは、補完代替療法に関しても、「通常の診療と同じように『科学的根拠に基づいた医療(Evidence-based medicine:EBM)』を参考に、患者さんとともに『利用する・しない』の意思決定をしてはどうか」とお話ししています。EBMは「エビデンス(科学的根拠)、臨床現場の状況・環境、医療者の専門性、患者の意向・行動[価値観]の四つを考慮し、よりよい患者ケアに向けた意思決定を行うための行動指針」と定義されています。

写真・図版

 これまで、健康食品などの補完代替療法は、ランダム化比較試験による科学的な検証がおこなわれていないと考えられてきましたが、最近では状況がかなり異なってきています。

写真・図版

 もちろん、報告されたランダム化比較試験の結果は、すべてが有効性を示すものではなく、逆に無効であったことを明らかにした報告もあります。

 また、EBMは「エビデンスがあるから行う」「エビデンスがないから行わない」といったマニュアル医療ではありません。意思決定の場面においては、「患者の意向・行動[価値観]」にも十分に配慮してコミュニケーションをとる必要があります。さらに、「臨床現場の状況・環境」に該当する、家族背景、経済状況なども情報収集したり確認したりする必要があります。そのため、EBMを実践していく際、エビデンス以外の要素も考慮するため、ときにエビデンスが示す結果とは異なる判断をすることもありえることも知っておく必要があります。

 さらに最近、患者さんから補完代替療法の利用について相談されるような場面において、筆者自身は、どのように対応しているのか教えてほしいと言われることがあります。

 もちろん、ケース・バイ・ケースで対応が微妙に異なることは前提の上で、ほぼ全てのケースで、「その補完代替療法を利用してみようと思った理由について、もしよろしければ詳しく教えてもらえませんか」と尋ねています。

 質問に対して質問で切り返すような、ずるい方法と思われる方もいるかもしれません。

 ですが、前述の通り、補完代替療法を利用する理由を尋ねたときの回答は千差万別です。ただ、よくよく聞いてみると、漠然とした不安や病気に対する恐怖が根底にある理由となっている場合が多くあります。ですから、患者さんやその家族を悩ませている不安や恐怖に対して、医療者が真摯(しんし)に対応していくことが、結果的には補完代替療法の利用に関する意思決定をサポートすることにつながるものと個人的には考えています。

患者や家族の立場として、すべきことは?

 では、患者さんやその家族は、補完代替療法の利用について、誰に相談すればよいのでしょうか。残念ながら、ほとんどの医師は補完代替療法に関する情報を持ち合わせていません。そのため前述の通り、患者さんから相談を受けたときには困惑してしまっているのが現状です。

 ですが、病院には医師以外にも、看護師、薬剤師、栄養士などがいます。健康食品を例に挙げれば、薬との相互作用については薬剤師に、栄養面での機能については栄養士に相談すれば、知りたい情報を提供してもらえるかもしれません。

 ただ、それでも心もとないかもしれません。そもそも、補完代替療法の利用を考える背景には、患者さんやその家族の不安や悩みが隠れている可能性があります。そうなると、患者の立場からすれば、いろいろと相談できる窓口を他にも探していく必要があります。代表的なものを紹介します。

がん相談支援センター

 全国のがん診療連携拠点病院に設置されている、がんに関する相談窓口です。その病院に通院していなくても、誰でも無料で相談に応じてもらえます。病気のこと、治療のこと以外にも、療養生活、社会復帰など生活全般に関する疑問や不安に対応してくれます。お住まいの場所から足を運ぶことができそうなところを探すときは、下記のURLから検索可能です。

がん情報サービス「がん相談支援センターを探す」:https://hospdb.ganjoho.jp/kyotendb.nsf/fTopSoudan?OpenForm別ウインドウで開きます

ピアサポート・患者会

 がんという病気と向き合うために、同じ病気を経験してきた人は、一番悩みを相談しやすい相手かもしれません。また、がん領域のピアサポートは、2011年から厚生労働省のピアサポーター育成事業として取り組まれてきていて、全国に広がってきています。

 健康食品などの補完代替療法をテーマに取り上げましたが、そもそもの療養生活がよりよく過ごせるために、今回の記事が少しでもお役に立つことができれば幸いです。

[参考文献]

1)Hyodo I, et al. Nationwide survey on complementary and alternative medicine in cancer patients in Japan. J Clin Oncol. 2005;23(12):2645-54.

2)鈴木 梢, ほか. 緩和ケア病棟で亡くなったがん患者における補完代替医療の使用実態と家族の体験. Palliat Care Res2017;12(4).731-7.

 (アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 島根大学・教授

島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、内閣府消費者委員会専門委員(特定保健用食品の審査)も務める。