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 厚生労働省が推奨する肺がん検診は胸部X線検査です。リスクの高い人には「喀痰(かくたん)細胞診」も追加します。コンピューター断層撮影(CT)による肺がん検診は現在のところ、対策型検診としては推奨されていません。海外ではCT検診が肺がん死を減らしたという先行研究がありますが、日本では検診によって肺がん死亡率が減少するかどうかの証拠は不十分だったからです。ところが今回、CT検診で肺がん死亡率が減るというコホート研究が発表されました。

 論文を読んでみました。茨城県日立市において、まずは日立製作所の従業員、退職者、配偶者を対象にCT検診が開始され、後に一般住民も受けることができるようになりました。研究の対象者は、CT検診または従来通りのX線検診を受けた50歳から74歳までの男女です。年齢、性別、喫煙歴を調整すると、X線検診群と比べてCT検診群では、肺がん罹患率は1.23倍、肺がん死亡率は0.49倍、全死亡率は0.57倍でした。平均の追跡期間は約9年間です。

 ただし、いくつか注意点があります。肺がん罹患がCT群で増えていますが、これは「過剰診断」と呼ばれ、一生涯、症状が出ないがんを発見しているのかもしれません。がん検診には多かれ少なかれ過剰診断が生じますが、小さいがんまで見つけると過剰診断がより増えます。余計な治療や心理的不安を招く過剰診断は検診による害の一つです。

 それでも肺がん死が半減するならその害に見合うだけの利益はありそうです。しかし、もしかすると肺がん死の半減(肺がん死亡率0.49倍)は有効性を過大評価しているのかもしれません。この研究では、CT検診を受けるか、X線検診を受けるかは、被験者が自分で選択します。よってCT検診群とX線検診群ではさまざまな条件が異なっています。たとえば、より健康的な生活習慣を持っている人がCT検診を受ける傾向があったとしたら、検診の効果とは無関係にCT検診群における死亡率が低くなります。

 CTとは関係が薄いはずの全死亡率もCT検診群で低くなっていることは、こうした自己選択バイアスの存在を示唆しています。ちなみに、海外の先行研究はランダム化比較試験といって、どの検診を受けるか自己選択するのではなくランダムに分けるという、バイアスが入りにくい研究デザインでしたが、CT検診群の肺がん死亡率は0.8倍でした。

 念のために申し上げますが、バイアスがあるからといって研究に価値がなくなるわけではありません。欠点のない研究は存在しません。バイアスがある可能性を念頭においた上で参考にすればよいのです。検診をただ行うだけでなく、こうして数万人ものデータを集め、解析し、発表したことに敬意を表します。また、この研究とは別に、日本でもCT検診のランダム化比較試験が進行中です。将来は日本でもCTによる肺がん検診が対策型検診として推奨されるようになるかもしれません。

 ※参考:Nawa T et al, A population-based cohort study to evaluate the effectiveness of lung cancer screening using low-dose CT in Hitachi city, Japan., Jpn J Clin Oncol. 2019 Feb 1;49(2):130-136.(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30541133別ウインドウで開きます

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。