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 このコラムでは、ADHDに悩む30代の新米ママ・リョウさんのお話を続けています。リョウさんは、生後6カ月になっても娘の夜泣きがいっこうにおさまらないことに悩んでいます。前回は、すでに身に付いてしまったよくない行動をやめさせるには、罰ではなく「代替行動(代わりの行動)を教える」ことと「消去(よくない行動によって成果を得る図式をなくすこと)」が大事だということをお伝えしました。今回はこの二つについて詳しく解説していきます。

 今回も、「夕食の時に無駄吠(ぼ)えしてしまう犬」の例で解説していきます。

 犬は、人間のご飯が欲しくて吠えていました。この犬に対して、「罰」ではない別の方法で、無駄吠えをやめさせるには、

 (1)代わりの行動を教える:吠える代わりに夕食の時間にどんな行動をすればいいのかを教える

 (2)消去:吠えたら美味しいのがもらえていたという図式をなくす

 この二つが必要です。

代わりの行動を具体的に教える

 まずは、「(1)代わりの行動を教える」から見ていきましょう。

 夕食の時に無駄吠えしている犬に、無駄吠えの代わりに何をして欲しいかを教えます。吠えずに、静かにしていて欲しい、と言いたいところですが、これまで吠えると叱られたりするものの、最終的には夕食を分けてもらえていた犬にとって、「静かにしているだけ」という行動はできるでしょうか?

 ……おそらく無理でしょう。この時のポイントは、

 ①その時に生理的に無理がなくできる行動を、

 ②具体的に、

 ③「〜する」という能動的な形で、教えることです。そして、できればその行動は、

 ④吠えるという行動と同時にするのは難しい行動、だとより効果的です。

 ポイントがたくさん出てきましたね。つまり、夕食時、おなかをすかせている犬が無理なく、犬として、その年齢や性格上できそうな範囲の行動を、吠える代わりの行動として教えます。

 おなかをすかせているのですから、「夕食のときには、自分の餌を食べる」という行動は身につけやすいでしょう。その犬がまだ若い犬で、やんちゃな性格なら、夕食の時間は「おもちゃで遊んで待つ」でもよいでしょう。その犬が朝飯前にできるような行動を代わりの行動として設定するのがベストです。

 このようにせっかく無理なくできそうな代わりの行動を設定しても、伝えるときに「惜しい!」タイプの人がいます。「ごはんのときは、おもちゃで遊んでいなさい」では、ちょっと曖昧(あいまい)です。できれば、日頃は犬の届かないところにある、夕食のときにしか出してもらえないようなおもちゃを与えて、「このおもちゃで遊んでいなさい」というのなら、犬が言うことを聞いてくれる確率はより高くなると思いませんか?

 こんなふうに、「具体的に」伝えることで実行率が上がります。さらにそのおもちゃが、犬が噛(か)んで遊ぶおもちゃなら、そのおもちゃに夢中で噛み付いている限りは、ご飯を食べることはできません。「すでに身に付いたよくない行動と両立しない行動」が代わりの行動になるとベストです。うまく代わりの行動が設定できれば、もしかするとこの時点で無駄吠えがなくなるかもしれません。

写真・図版 

 

 しかし、実際には、家族が嫌がるほどに大きな泣き声で、うんざりするほど吠え続ければ、人間のご飯がもらえる……ということを学習してしまっている場合、ちょっと貴重なおもちゃがもらえるくらいでは、見向きもしないかもしれません。食べ飽きたドッグフードなど、さらになんのご褒美にもならないかもしれません。

 この状況で、代わりの行動をどんなに教えても、なんの効果もないかもしれないのです。

良くない行動にご褒美をあたえない 

 そこで、「(2)消去:吠えたら美味しいのがもらえていたという図式をなくす」が大事になってくるのです。

 これは飼い主の側に相当な覚悟が必要になります。犬がどんなに大きな声で吠えても、長時間しつこく吠え続けても、決してそれに屈して人間の夕食をあげないことです。これまでの図式である「吠える=人間の夕食がもらえる」を壊す必要があるのです。

 しかし、犬の方も必死です。一度や二度飼い主が夕食を分けてくれなくなったとしても、あきらめないでしょう。吠えるだけではだめだとわかると、膝(ひざ)のあたりに前脚をのせてせがんだり、犬によっては、噛み付いたりするかもしれません。そこでもし飼い主が屈して、「今日だけよ。もう噛んだらだめ」などといって、夕食を分けてしまったら……。犬は「吠える+噛み付く=人間の夕食がもらえる」というさらにやっかいな図式を学んでしまうのです。これでは逆効果です。

 (1)と(2)をまとめると、「この時間にしか遊べない特別なおもちゃを渡す」など、吠える代わりにして欲しい行動を、実際にできそうな具体的な形でひとつ決める。そして、どんなに吠えられても、従来のように人間の夕食を分け与えず、その代わりの行動をひたすら教えるのです。

 と、理屈ではシンプルなのですが、実行に移すとなると、家族全員がこの方針を理解して、息を合わせる必要がありそうですね。それに事前に心の中で、「これは愛犬にいじわるをしているんじゃないんだ。吠えたらもらえるっていう間違った学習を、書き換えているんだ。共存して行くために必要な行動を教えているんだ」と整理することも必要そうですね。

赤ちゃんの夜泣きにあてはめると…

 これを、夜泣きする赤ちゃんにあてはめると、夜泣きの代わりにしてほしい行動を、赤ちゃんができそうな具体的な形でひとつ決める。そして、どんなに泣いても従来のようにおっぱいや抱っこを与えず、代わりの行動をひたすら教える……。こんな手順になります。

 相手が愛犬でも、てこずる人も多いのに、これが我が子、しかもまだまだ小さな乳飲み子だったとしたら……。夜泣きへの対処はかなり大変です。

 なので、この手順をそのまま、すべての赤ちゃんの夜泣きにも使いましょうとは私は言い切れません。一生夜泣きする赤ちゃんは確かにいませんし、年齢が上がれば自力で寝る方法を自然と身に付けるはずなのです。しかし一方で、3年も5年も夜起きては飲む、食べる、遊ぶ……とエスカレートしていく夜泣きのケースもわずかながらあるのです。

 また、親の側に、夜間、夜泣きに対応できるマンパワーがない、身体が弱くて長期間の睡眠不足は致命傷だ、睡眠不足で日中活動ができない、寝てなくてイライラがとまらずこのままでは手を挙げてしまいそう、あまりに睡眠がとれなくて身体を壊した、などの事情があるときは……。もうそんなピンチのときには、こんな方法もあるにはあるのだとお伝えしたくて書いています。

 夜泣きする赤ちゃんにイライラして、強く揺さぶって後遺症を残してしまったなどの痛ましい事件が報道されています。くれぐれも夜泣きに対して「罰」を与えず、適切な方法で解決できるのだと知って欲しいのです。

 

 では、「もうすぐ眠る場面=おっぱい・抱っこ」と学習された結びつきを消去しつつ、おっぱいの代わりとなる行動を教えるには、どうしたらよいのでしょう?

 具体的な夜泣きへの対処法については、次回、さらに詳しく解説します。

 

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<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。