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 「他の国と比べて日本でがん死が多いのは、がん検診の受診率が低いからだ」とか、「先進国でがん死が増えているのは日本だけ」という主張を耳にすることがあります。これらの主張は正しい部分もありますが、間違っている部分もあります。

 日本でがん検診の受診率が低いというのは正しいです。たとえば、乳がん検診の受診率について、日本では40%程度である一方で、アメリカ、イギリス、ドイツでは75~80%です。乳がん検診は乳がん死を減らす効果があるので、検診受診率はもっと高い方が望ましいでしょう。しかし、検診が乳がん死を減らす効果は20%ほどです。がん検診の対象外の年齢層のがん死もあることも考慮すると、人口全体の乳がん死の傾向を大きく左右するほどではありません。

 そもそも、一般集団において有効性が国際的に認められているがん検診は、乳がん検診、大腸がん検診、子宮頸(けい)がん検診の3つのみです。前回ご紹介したCTによる肺がん検診の有効性は肺がんリスクの高い喫煙歴のある人に限られています。がん検診の効果は限定的で、検診が有効ながん種は数種類のみであることを考えると、がん検診の受診率の低さは日本のがん死の増加のほんの一部しか説明できません。

 日本のがん死の増加の主因は明確です。人口の高齢化です。ほとんどのがんで加齢はリスクになります。がん以外の病気で死ななくなれば高齢者が多くなり、がん死も増加します。高齢化の影響を取り除いた年齢調整死亡率でみると、日本は他の先進諸国と同じく、がん死は減っています。年齢調整後のがん死の減少は、がんの治療法の進歩、喫煙割合の低下、ピロリ菌や肝炎ウイルスの感染割合の低下などの複合的な要因によると思われます。

 WHOのサイトでは世界各国のがん統計の情報を得られます。フランス、ドイツ、日本、イギリス、アメリカのすべてのがんの年齢調整死亡率の推移(男性)をグラフにしてみました。どの国においてもがん死が減少傾向にあるのがわかります。

 現代医学には問題も欠点もありますが、こうしてグラフにしてみると医学の進歩を実感できます。ちなみに年齢調整をしない租死亡率やがん死亡者数は日本だけではなくドイツでも増えていますので、「先進国でがん死が増えているのは日本だけ」というのも間違いです。

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。