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 4月になり新しい職員を迎えた施設もあると思います。新入職員の教育や指導を担当する人もいるのではないでしょうか。

 医療や介護の現場では、就職して比較的早い段階から患者や利用者に接するようになります。不十分な知識や技術のままケアすると、命に関わる危険性もありますから、しばらくの間は経験のある人が手本を示し、説明しながら段階的に仕事に慣れてゆくのです。

 でも、新入職員と一緒に働いていると、相手が自分の言う通りに動いてくれないことにイライラ・ヤキモキすることがあります。「まったく今年の新人は!」と言うセリフをよく聞きますが、それは今年に限ったことではありません。毎年繰り返されているのです。

 指導する立場になって、つい自分のやり方に合わせてもらいたい、同じようにしてほしいと考えてしまうことはありませんか。誰だって慣れた方法でものごとを進めるのが楽ですね。しかし、人は自分の思い通りには動いてくれないものです。

 こうした自分にとっての常識、自分の中にある価値観は、怒りの引き金になります。自分の価値観と現実との間にズレが生じたとき、怒りが生じるのです。

 

 価値観がまったく同じという人は2人といません。就職や人事異動で新しい人が来れば、自分と異なる考えを持っていたり、思いもよらないことをしでかしたりします。

 最近はダイバーシティー(多様性)という考え方が雇用の場面でも浸透しつつあります。多様な人材を積極的に雇用しようとする考え方です。医療職や介護職でも、皆が新卒とは限らないし、前に別の業界での職歴がある人もいます。

 年齢も性別も性格も育ってきた環境もキャリアも異なる人が一緒に働くのですから、価値観は人それぞれに違って当然です。ところが頭ではわかっていても仕事を教える立場になると、ついそれを忘れてしまうのが現実ではないでしょうか。

 もちろん、医療や介護の現場では、ケアの対象となる人の安全や尊厳を守るために、怒らなくてはならない場面も出てきます。必ず守らなければいけないルールもありますね。でも、自分と同じやり方や考え方を求めて怒るのは、自分も相手も追い詰めてしまう危険性があります

 

 もし、あなたが指導している相手が思いもよらないことをしていたら……。

 「やってはいけないこと」「職場のルール」などを指導した上で、なぜそうしたのか、どんなことを考えたのか、と関心をもってたずねてみましょう。相手の考えを知ることで、自分とは違うのだと気づくことができます。違いを認めたり、話し合いの中で折り合いをつけたりするなかで、自分にとってゆずれない価値観に気づいたりもするでしょう。

 

 指導する立場の人が皆イライラしているわけではないと思います。人材を育てることが楽しくて仕方ないという人もいるでしょう。

 でも、実のところ私は、職場に新しい人が入ってくるとちゃんと育てなくてはという気負いがあったように思います。いま思えば「ちゃんと」というのは、自分と同じように動く人です。そうすると自分の価値観と違う言動にイライラします。人は違っていていいし、それが個性だと思えるようになったら、それだけでずいぶん気持ちが軽くなりました。

 新しい風が吹き込むことで空気が流れます。空気の流れがなければ淀(よど)んでしまいます。新しい人が入ってくると、思いがけない気づきがあったり、新しいアイデアを得たりして、きっと職場も活性化します。人と人とは、考え方が違っているのが自然なことです。違いを認められるとイライラしなくて済むこともあるかもしれませんよ。

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。