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 体力が低下して生活を支える手段が必要になったときに重要なのが介護保険。がん患者が利用するとき、書類には「末期がん」と書かなければなりませんでしたが、最近、そうした必要がなくなりました。その経緯をたどると、がん患者の姿を見つめ直すことにつながりそうです。

 

 みなさんは末期がんという言葉を聞いて、どんな状態をイメージしますか?

 「すぐに死んでしまう状態」

 「やせ細って顔色が悪いがん患者」

 このようなネガティブな印象を持っている方が多いのではないでしょうか。

 介護保険制度ができた当初、介護保険の対象になる特定疾病には「がん」はありませんでした。そこで「特定疾病におけるがん末期の取り扱いに関する研究班」が立ち上がり、この研究班による報告書を根拠に2006年4月から特定疾病に「がん」が加わり、その定義として「末期がん」が生まれました。でも、実は末期がんについて、医学的にも明確な定義はなく、この言葉の定義をめぐって混乱を招いてきました。経過を振り返りつつ、説明します。

 「病院にあるようなベッドを在宅で使いたい」「車いすを借りたい」など、自宅での療養生活を支えてくれるのが「介護保険サービス」です。

 介護保険制度は、40歳以上の加入者が保険料を出し合い、介護が必要な人をお互いに支えあう仕組みです。加入者は、第1号被保険者(65歳以上)と第2号被保険者(40歳~64歳まで)の二つに分類され、原則として、介護保険サービスの利用は前者の第1号被保険者となっています。

 ただし、第2号被保険者、つまり、40歳から64歳までの人でも、「特定疾病」として指定されている16の病気に該当する場合には、介護保険サービスを利用することができます。

 がんも、その特定疾病の一つに指定されており、介護保険サービスが必要な状態になれば申請をすることで利用できます。でも、実はこのことがあまり知られていません。

がん患者さんには使いにくい介護保険

 みなさんの病院や自治体においてある介護保険サービスのパンフレットには、「特定疾病」として「がん」がどのような書き方がされているでしょうか?

 「末期がん」、「がんの末期」、「治癒困難ながんの患者さん」など、実はこの書き方が自治体によってバラバラなのです。

 特定疾患にがんが加わって以来、何度か問題提起されてきました。介護認定や介護等級の判定に必要な主治医の意見書が、「衣類の着脱ができる」「移動ができる」など高齢者の利用を想定した様式なので、亡くなる直前まで比較的自立した生活ができる「がん」では、この書類が書きにくいということもその一要因でした。

 厚生労働省は、がん患者も介護保険サービスを迅速に利用できるようにと、2010年に介護認定や福祉用品の利用に対する事務連絡を出し、「末期がん」という言葉が介護保険サービスの中で使われるようになりました。主治医の意見書にも、「末期がん」という言葉を明記することが求められ、厚生労働省のWEBサイトや自治体のパンフレットにも「末期がん」という単語が登場するようになりました。特定疾患のがんの表記でさえばらばらなのに、定義があいまいな「末期がん」という言葉が入って、さらに混乱を招きました。

 「分かりやすさ」という点では評価できますが、その一方で、「私は末期がんではないので自分には不要」、「あなたは“末期がんではないですよ”と言ったうえで制度を紹介することが心苦しかった」など、利用する側も、医療者側も、「末期がん」という言葉に対する抵抗感が存在し、必要な人に制度が届かないケースがありました。

【関連サイト】

・「末期がん等の方への介護認定にいける留意事項について(平成22年4月30日事務連絡:厚生労働省老健局)」

https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/nintei/dl/terminal-cancer_1.pdf別ウインドウで開きます

・「末期がん等の方への福祉用具貸与の取り扱い等について(平成22年4月30日事務連絡:厚生労働省老健局)」

https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/nintei/dl/terminal-cancer_2.pdf別ウインドウで開きます

・「介護保険制度におけるがん患者への対応について(平成26年7月2日事務連絡:厚生労働省老健局)」

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000050012.pdf別ウインドウで開きます

利用しづらいがん患者の介護保険

 以前にも紹介した遺族調査(https://kibou.jp/images/20160114L.pdf別ウインドウで開きます)では、この通達が出された前後での違いも比較しています。

 通達後は、等級については逆に低く見積もられていることが分かりました。一方で、承認のスピードに関しては2週間程度の割合が多くなるなど、改善されつつありました。(図参照)

写真・図版

写真・図版

 昨年12月26日に、国立がん研究センターがん対策情報センターから発表された「遺族調査(厚生労働省委託事業)」の予備調査でも、「介護保険を利用したことがない人の利用したことがない理由として、申請したが利用できなかった方が21.0%おり、介護保険の利用についても検討する必要あることが示唆されました」と述べられています。

まずは「使える」ことを知ってもらうことが大切

 使いたいけど、使いたくない

 言いたいのに、言い出しにくい

 このような状況をなんとかしようと、第三期がん対策基本計画でも「国は、要介護認定における“末期がん”の表記について、保険者が柔軟に対応できるような方策を検討する」と明記されました。

 そして、今年の2月19日、「介護保険の病状に、“末期がん”などと記載せず、ただ“がん”と書けばよい」という事務連絡が、厚生労働省から都道府県へ出されました。また、それまで同省のホームページに記載されていた「末期がん」の言葉も削除されました。

 患者が介護認定されることで、家族は育児介護休暇法による介護休暇を使いやすくなる可能性もありますし、寄り添う時間や息をつく時間を持つこともできるでしょう。

 この事務連絡が、医療者も家族も患者も、みんなが「生活者としての患者の姿」を見つめる良いきっかけになることを期待しています。

【関連資料】

・「がん患者に係る要介護認定等の申請に当たっての特定疾病の記載等について(厚生労働省・平成31年2月19日事務連絡)」

https://www.mhlw.go.jp/content/000480885.pdf別ウインドウで開きます

<アピタル:がん、そして働く>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/cancer/

(アピタル・桜井なおみ)

アピタル・桜井なおみ

アピタル・桜井なおみ(さくらい・なおみ) 一般社団法人CSRプロジェクト代表理事

東京生まれ。大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にて、まちづくりや環境学習などに従事。2004年、30代で乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がん経験者を含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。社会福祉士、技術士(建設部門)、産業カウンセラー。