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 このコラムでは、ADHDの30代女性・リョウさんが、我が子の夜泣きについて悩んでいるお話を続けています。

 リョウさんの娘は生後6カ月。夜泣きがずっと続いていて、リョウさんは夜に眠れず疲労困憊(こんぱい)していました。夫はまったく育児に参加せず、残業や飲み会を繰り返しています。ある日、夫と大げんかをしたリョウさんは、娘を連れて家を飛び出し、途方に暮れて児童館を訪れたのでした。そこで、ベテラン保健師から赤ちゃんの睡眠について教えてもらっています。どうやら、これまでの寝かしつけの方法を見直すことが、夜泣き解消の糸口になりそうです。今回はいよいよ、リョウさんが動き出します。

 前回までに、すでに身についてしまった行動をやめさせるには「代わりの行動を教える」ことと「消去(ある行動によって成果を得る図式をなくすこと)」が重要であることをお伝えしてきました。これを赤ちゃんの夜泣きに当てはめると、夜泣きの代わりにしてほしい行動を教えて、泣くたびに与えていたおっぱいや抱っこを与えないようにする、という手順になります。

 では、赤ちゃんが夜中に目が覚めて、再び自力で寝付けないときに、親として、夜泣きの代わりに我が子にして欲しい行動はなんでしょうか? それはずばり、「自分で寝る」ことですね。これまで与えていたおっぱいや抱っこを与えずに、自分で寝るという行動を学習してもらうのです。

 でも、眠ることを教えるって、どうしたらいいんでしょう。

 おっぱいをあげずに祈るだけでは、これまでよりももっとひどく泣いてしまう赤ちゃんが多いでしょう。それもそのはずです。これまでなら少しでも泣けばすぐにもらえたおっぱいが急に取り上げられるのですから、赤ちゃんの方も必死です。

 でも、長時間泣き続けられて根負けした親がおっぱいをあげてしまうと、もっと悲惨なことになります。「そうか、根気強く泣いていればもらえるんだ!」ということを、赤ちゃんが学習してしまうからです。また、授乳の代わりに他の飲み物や食べ物、抱っこ、遊んでもらえる、テレビ、スマートフォン、ドライブ……などの別の入眠儀式を教えてしまうと、今度は「夜中に目覚めると何か楽しいことが起こる」と学習してしまいます。夜泣きは継続しますし、結局子どもも家族も慢性的な睡眠不足になって、根本的な解決になりません。

 つまり、夜泣きの解消には、夜泣きをしたらおっぱいがもらえるという学習を消去しながら、特別なご褒美を与えられなくても自力で眠りにつく、という代わりの行動を、新たに学習してもらわなければならないのです。

 

 言葉もよくわからない赤ちゃんに、眠ることを教える……。これには、「体感してもらう」ことが大切です。眠りやすいタイミングを逃さずに「あ! 自力で眠れた」という体験を誘い出すのです。

 この「自力で眠る体験」を誘うなら、いきなり夜中に試すよりは、お昼寝の時間帯が比較的取り組みやすいかもしれません。昼食後やいつも子どもがお昼寝をしている時間帯を狙って、静かでリラックスできる環境を用意します。日頃、授乳や抱っこやベビーカーに乗せるなどで寝かしつけている場合は、それらをやめます。赤ちゃんが泣いても静かに見守りながら、赤ちゃんに、自分の眠気に身を任せて、力を抜いて、眠りにつけるという体験をさせるのです。「うちの子は寝つきが悪いから」「まだ自力で寝ることを学ぶには早いのでは?」などいろいろな不安はあることと思いますが、「眠ること」は本来誰にでもできることです。

 これではハードルが高いと感じる場合は、親子にとって、体力的にも精神的にも無理なく続けられる「寝るためのお決まりの流れ」を作るのも手です。絵本を読むとか、お風呂上がりの1時間後には電気を消してしまうとかです。お気に入りのぬいぐるみや、しゃぶってもいいおもちゃを持たせる、眠気を誘う音楽をかける、などもよいかもしれません。本来みんなが持っている「眠ること」という力を引き出すというイメージで、最初は泣いてしまう赤ちゃんに眠り方を教えていくのです。まだ小さくて無力に見える赤ちゃんの力を信じて、待つのです。こうした姿勢は、夜泣きに限らず、子育て全般にも言えることかもしれません。

 

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 夜泣き解消のために、本格的に夜間の授乳をやめる前には、赤ちゃんの月齢や離乳食の進み具合、発育状況などを専門家に相談してみるとよいでしょう。定期健診のときに、保健師や医師に聞いてみるのもよいですね。個人差はかなりありますが、月齢によっては、夜寝ている間に母乳やミルクを飲むことが成長に欠かせない時期もあるからです。相談した結果、夜の授乳を続けた方がいい場合でも、お昼寝の時間帯なら練習しやすいですね。

 それに、思いだしてみてください。赤ちゃんは必ずしもお腹がすいて泣いているのではなくて、ただ眠りが浅くなって目が覚めて、自力で眠れないから泣いている場合もあるのです。泣き出した赤ちゃんを少し観察してみたり、お昼寝の時間に練習させたりするだけでも、解消される夜泣きがあるかもしれませんね。

 夜泣き対策を始めるときには、相当な決意をもつことが必要です。家族が協力して、足並みをそろえて向き合うことも欠かせません。

 

 保健師から一連の夜泣きへの対処法を聞いたリョウさんは、こう言いました。

リョウ 「全然知らなかったです。今からでもなんとかなるんでしょうか」

保健師 「大丈夫、気づいたときから始めればいいのよ。お子さんは、発育にも問題はなさそうだから、試してみてもいいんじゃないかしら」

 夜泣きへどう対処すればいいかが初めて見えてきて、リョウさんは、少し勇気が出ました。家に帰ってやってみようかな……と思ったその時、もう一つ、大きな問題があったことを思い出しました。それは他でもない、夫でした。

 「そんなに大変なら、なんで子ども産もうと思ったの。それくらい覚悟できてなかったの」

 前日の夫婦げんか。すれ違いの生活を送っていた夫に、自分が睡眠不足で限界なことを伝えようとしたリョウさんに対して、夫はそう言ったのです。リョウさんはこの言葉に絶望していました。そして、信じていた夫が自分をダメな母親と見ていたことに、ショックを受けていました。

 そんな夫といっしょに、生活を立て直していけるのでしょうか。リョウさんはやっぱりまだ家に帰りたくありません。

 困った時に思い出したのは、親友ミズホさんの顔でした。昔からリョウさんの特徴をよく知っていて、ピンチの時に助けてくれるミズホさん。ミズホさんも数年前に子どもを産んで、ママになっていました。ミズホさんなら、先輩ママとして、何かヒントをくれるかもしれません。

 決心したリョウさんは、保健師にお礼を言って、娘を連れて児童館をあとにします。このお話は次回に続きます。

 

 <お知らせ> 新しい本が出ました。

 12時まで……2日間以内に……。いつも夢への期限が決められながらも、あきらめることなく夢を叶えてきたディズニープリンセスたち。彼女達のように夢を叶えるための時間とのつき合い方をご紹介するエッセイです。

 「ディズニープリンセス夢を叶える時間術」 中島美鈴 (監修・文) 講談社

 https://www.amazon.co.jp/dp/4065147174/別ウインドウで開きます

写真・図版 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。