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 医療や介護の現場で働く皆さん、「あの患者は気難しくてどうも苦手で……」などと話したりすることはありませんか。職種を問わず、言動がいちいち癪(しゃく)に障るという同僚や関係機関の職員、患者や利用者などに出会ったことはありませんか。

 私たちは「あの人が私を怒らせる」、あるいは「こんなことがあれば誰だって怒る」などと考えがちです。「誰か」や「その人の言動」、「何かの出来事」に怒る理由を探したくなりますが、実は「あの人」や「出来事」があなたを怒らせているのではありません。

 怒りが生じるには仕組みがあります。何かの出来事に遭遇したとき、私たちは自分の価値観に照らしてその出来事を意味づけします。その意味付けによって怒りが生じます。また同じ出来事でも意味づけによって怒りは生じないということもあり得ます。

 例えば看護師は入院している患者に何度もナースコールで呼ばれることがあります。これが繰り返されると次第に怒りが湧いてくるという人もいます。でも誰もが同じではありません。何度もナースコールで呼ぶ患者に対して苛立つ人もいれば、そうでない人もいます。「私は怒っているのに、あの人はどうして穏やかに対応できるのだろう」と思うような場面はありませんか 。それは、怒りが特定の誰かに起因しているのではないからです。

 「何度もナースコールで呼ぶ患者」や「ナースコールが鳴るという出来事」を自分がどう意味づけるのかによって、怒りが生じ、あるいは生じないのです。

 この意味づけには、自分の経験や、経験によって培われた価値観が影響します。

 繰り返されるナースコールで仕事を妨げられたと意味づける人もいると思います。多くの業務や患者のケアを時間内に終わらせるために、段取りを考えながら懸命に働いているなかで、ナースコールによってそれが中断されたことが引き金となり、「ナースコールで仕事の邪魔をされた」と怒るのです。

 別の人の意味づけはどうでしょう。何度もナースコールで呼ばれるのは、患者は助けを求めていると意味付けすることもできます。入院したばかりで、不安があるのかもしれません。目の前の患者に対応することは、看護師にとっては中心的な仕事です。困っている患者への対応を最優先にしたいという価値観を持っているとしたら、ナースコールは自分の出番と考えて、はりきって対応しようとするでしょう。この意味付けでは怒りは生じません。

 「あの人」や「出来事」をどう意味付けるかは人によって異なります。それは、怒りの原因が「あの人」や「出来事」によって決められるのではないことを意味します。 怒りの原因が「あの人」や「出来事」だとすれば、自分ではどうすることもできません。人は自分の思い通りには動いてくれませんから、それでは怒りをコントロールするのは難しくなります。反対に怒りは自分の意味付け次第だとすれば、この意味付けは自分で変えることができます。すなわち自分の怒りは自分でコントロールできるということです。

 仕事を繰り返し中断されることに怒りがわいてくる時は、心の中で「さあ、わたしの出番」と唱えてみるのも一つの方法です。言葉にすることで、少し、気持ちを切り替えられるかも知れません。

 怒りが生まれるか否か、あるいは怒りが生まれたときにその程度は、この意味付け次第で変えられるのです。

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。