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 子宮頸(けい)がん検診は有効性が証明されたがん検診です。日本では20歳以上の女性が子宮頸がん検診の対象です。国際的にも多くの国が公的に子宮頸がん検診を推奨していますが、その対象年齢は国によって少しずつ違います。ドイツは20歳以上、アメリカ合衆国は21歳以上が検診の対象で、日本とそれほど変わりません。一方、フランスやイギリスでは25歳以上が、フィンランドやオランダでは30歳以上が対象です。

 「どんな場合でも検診はしないよりしたほうがいい」という誤解はけっこう見られます。しかし、がん検診には利益がある一方で、検査に伴う苦痛や偽陽性や過剰診断といった害(不利益)もあります。利益と害を比較して利益のほうが大きい場合に検診が推奨されます。子宮頸がんの罹患(りかん)率や死亡率が小さい集団に対しては検診から得られる利益も小さくなりますので、推奨の度合いは弱くなります。害のほうが大きい検診はすべきではありません。

 20歳前半の子宮頸がんの罹患率や死亡率はゼロではありませんが小さいです。罹患率がもっと高い年齢層に対してなら、利益のほうが大きいことは明確ですが、20歳代の集団に対する害と利益のバランスは微妙なところです。

 「若くても進行した子宮頸がんにかかったり、亡くなったりする人たちがいる。そういう人を一人でも少なくするためにも検診は必要だ」という意見もあるでしょう。ただ、20歳前半の女性を対象とした子宮頸がん検診が子宮頸がん死を防ぐことは直接には証明されていないのです。子宮頸がん検診の有効性を示す研究はたくさんあるものの、ほとんどがもっと罹患率の高い年齢層が対象です。

 若年者に対する検診の利益の不確実性や、検診の害を重視する立場に立てば、子宮頸がん検診の開始年齢は遅めにする方針を採用するでしょう。どの方針が正しいとか間違っているとかいうものではありません。がんの罹患率・死亡率以外にも、それぞれの国ごとの価値観、医療機関へのアクセス、予算などの事情にもよります。

 なお、自覚症状があれば検診の対象年齢とは関係なく受診が必要です。子宮頸がん検診なら不正性器出血や帯下(おりもの)の異常がよくある自覚症状です。「半年先に検診の予定があるからそのときに」とは考えずにできるだけ早く受診してください。検診は症状のない人が対象です。

 現在、未成年に対する子宮頸がん検診を推奨している国は私の知る限りではありません。2017年までオーストラリアでは18歳以上が検診の対象者でしたが、現在では25歳以上に引き上げられました。米国予防医学専門委員会(USPSTF)では21歳未満の子宮頸がん検診は推奨度D、つまり、利益より害が大きいと判断しています。

 日本では20歳以上の女性が子宮頸がん検診の対象であることは冒頭でもお話しました。ただ、自治体によっては18歳以上を対象にしているところもあります。他にも、30歳台への乳がん検診やMRIによる検診など、有効性が明確ではないがん検診が行われていることもあります。住民のために良いことだと考えて善意で検診が行われていることは疑いません。しかしながら、検診の利益と害のバランスをきちんと評価し、検診を受ける人に十分な説明があった上でのことなのか、気になります。

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。