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 医療の現場で働いていると、笑顔で対応する私に「あなたの笑顔に癒やされるわ」と言って笑顔を返してくれる人もいれば、「人が苦しんでいるのに笑いやがって」と怒る人もいます。

 できるだけ平易な言葉で説明しようとしたら「わかりやすい」と喜んでくれる人もいれば「子ども扱いして馬鹿にしている」と怒る人もいます。

 部屋を訪ねたら「忙しいのに悪いわね」とねぎらってくれる人もいれば、「いつまで待たせるのか!」と怒鳴る人もいます。

 こちらの意図に反して、相手から思いもよらない行動や反応が返ってくることがあります。

 前回は、出来事の意味付けが人によって異なるという話をしました。一人一人育ってきた環境が違い、物事の捉え方も違います。同じ職場で働くスタッフ同士でも、自分は苛立つような出来事に、別の人は怒る様子もなく穏やかに対応しているということもあります。

 同じように、ケアする相手も人それぞれに異なる価値観を持っていて、ものごとの受け止め方は多様です。

 こちらが説明した通りに動いてくれない、あるいは「待って」と言っても待ってくれないということもあれば、こちらが良かれと思ってしたことが喜ばれるどころか相手を怒らせてしまうということもあります。

 良かれと思って一生懸命にやっているのに、それが報われないこともありますよね。

 

 人を援助する仕事をする人は、相手の気持ちに寄り添い、ニーズを察してケアを提供しようとします。中には、さまざまな人に出会う医療や介護の現場において、瞬時に相手の意思をくんでケアを提供できるスタッフもいます。相手の立場に立って考え、相手にとってかゆいところに手が届くようなケアができたら、それは素晴らしいことです。

 でも、真に相手に寄り添うのはとても難しいことです。より良いケアを目指して努力することは大切ですが、完璧を求めすぎて、うまくいかないからと自分を責めてしまうと、自分を苦しめることになります。

 怒りとは、その人が生活するなかで育まれてきた価値観が引き金になって生じるものです。価値観は人それぞれ異なり、外からたやすく修正できるものでもありません。アンガーマネジメントの基礎的な知識として「怒りとは何か」を知ると、相手の怒りを理解し、相手の状況を察して柔軟に対応できることがあります。同時に、ものごとの受け止め方や意味づけは人それぞれで、他人の価値観を完璧に読み解くことは不可能だという現実も理解できるのではないでしょうか。

 

 いろんな人がいますから、皆が同じように受け止めてくれることはありませんし、相手の価値観やものごとの捉え方をコントロールすることはできません。相手の反応だけで、自分を評価しようとするのはやめましょう。

 良かれと思ってやったとしても、相手は違った捉え方をすることもありますし、うまくいかない日もあります。そんな時は、「今日はうまくいかなかったな」「こんな日もある」と受け止められるぐらいのほうが、次はもっとうまくいくかもしれませんよ。

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。