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 からだや病気のことについて、ネットや本で調べたことがある人は多いでしょう。健康や医療に関する情報を入手、理解、評価、活用するための能力を「ヘルスリテラシー」といいます。実は日本人のヘルスリテラシーは低いとされています。こう聞いて驚いた人もいるかもしれません。今回はヘルスリテラシーを向上させるためにできることはないか考えてみたいと思います。

▼日本人のヘルスリテラシーは諸外国と比べて低い

▼正確な情報には必ず不確実性(効果が100%保証されているわけではないこと)が伴う

▼情報を利活用するためには不確実性に耐えつつ決断・行動の意思決定を行うことが重要

 先日、島根大の学生講義で「ヘルスリテラシー」を取り上げました。学生たちに「ヘルスリテラシーという言葉を今日初めて聞いた人」と尋ねると、残念ながらほとんどの学生が手を挙げました。読者の方にも初めて聞いたという人が多いかもしれません。

 ヘルスリテラシーは、健康的な生活をおくるために役立つ能力の一つです。身に付けておいて損はありません。

健康情報を入手・理解・評価・活用するための知識

 では、ヘルスリテラシーとは何なのでしょうか? さまざまな定義を整理してまとめた論文では、次のように定めています(※1)。

 「健康情報を入手し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力であり、それによって、日常生活におけるヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーションについて判断したり意思決定をしたりして、生涯を通じて生活の質を維持・向上させることができるもの」

 もともと、「リテラシー」とは文字の読み書き能力を表す言葉です。そこに、健康を意味する「ヘルス」がつくことで、ヘルスリテラシーとは健康に関する情報について「入手」「理解」「評価」「活用」する能力ということになります。

 近年、ヘルスリテラシーは「ヘルスケア(病気や症状があるとき、医療の利用場面など)」「疾病予防(予防接種や検診受診、疾病予防行動など)」「ヘルスプロモーション(生活環境を評価したり健康のための活動に参加したりすること)」の場面で重要とされ国際的にも注目されています。

 そのため、ヘルスリテラシーに関するさまざまな測定方法の開発が進められました。最近では国際的な共通の測定尺度で、国別の比較も行われています。そして日本人のヘルスリテラシーのスコアが諸外国に比べて低いことが明らかとなりました(※2、3)。

拡大する写真・図版聖路加国際大・中山和弘さん運営サイト「健康を決める力」(https://www.healthliteracy.jp/kenkou/japan.html)より

 日本人のヘルスリテラシーはEUやアジアの諸外国と比べると低いことが一目瞭然です。

 ヘルスリテラシーを身につけるためのサイト「健康を決める力」(http://www.healthliteracy.jp/別ウインドウで開きます)を制作・運営している中山和弘さん(聖路加国際大学看護情報学)によると、日本でヘルスリテラシーが低いと考えられる背景として「プライマリー・ケア(身近にあって何でも相談できるケア)の不十分さ」「インターネットを含めた情報の入手先の問題」「子供のころからの健康教育体制」などが挙げられています(※4)。

 この連載でも、健康や医療に関する情報の「見極め方」と「向き合い方」について解説してきました。そこで、ヘルスリテラシーの向上させるために、情報を「入手」「理解」「評価」「活用」する場面で、個人でできることに焦点をあてて、過去の記事も参照にしながら、注意すべき点や知っておいてほしいポイントを紹介します。

情報を「入手」するときの注意点

 2017年に東京都が行った「健康と保健医療に関する世論調査」(※5)によると、情報の入手方法は、「テレビ」が78%、「インターネット」と「SNS」を合わせて50%となっています。

 過去の調査と比較するとインターネットから情報を入手している人が年々増加してきています。インターネットからの情報収集は便利な半面、情報の内容は玉石混交なのが現状です。さらに膨大な情報の中から自分にとって必要な情報を入手する手間や時間も無視できない状況があります。

 対策としては「正確な情報が掲載されているサイトを利用する」などがあります。詳細は過去の記事を参照していただけると幸いです。

▼「正確な情報」を入手するには[2017年10月19日]

https://www.asahi.com/articles/SDI201710175544.html

情報を「理解」するときの注意点

 情報を入手したあと、その内容を正確に理解しなければなりません。もちろん、ほとんどの人が、書かれている文字や数字を読むことはできると思います。しかし、情報の提示のされ方によって受け取る印象が変わってくるときがあります。

 例えば、人がもともと持っている心理効果を使って情報の見せ方を工夫することで、本来よりも数字を大きく認識させたり逆に小さく認識させたりすることができたりします。

 さらに人は感情によっても情報の認知がゆがめられてしまうことがあります。特に「不安」「恐怖」「怒り」などの感情に振り回されているときには情報を正確に理解できない場合があることに注意が必要です。

▼「感情」が認知に及ぼす影響[2017年11月9日]

https://www.asahi.com/articles/SDI201711076905.html

 情報を理解する上でのコツやポイントはほかにもたくさんあるかもしれませんが、「『人の頭はだまされやすい』ことを常に意識しておく」という点が一番重要ではないかと個人的には考えます。

情報を「評価」するときの注意点

 入手した情報の内容を正確に理解したあと、その情報が本当に信頼できるものか評価する必要があります。情報の信頼性をはかる方法の一つが、その情報がどのような方法で導き出されたものかを調べることです。

 医療での世界共通認識として、ある治療法が病気の予防や治療に「効く」と主張するためには、研究対象となる人を無作為(ランダム)に二つの集団に分けて比べる「ランダム化比較試験」によって有効性が証明されていることが必要です。

 しかし、最も信頼性の高い情報に基づく予防法や治療法であっても、効果が100%というわけではありません。残念ながら効果のある人とない人が出てくるのが現実です。これを「医療の不確実性」といいます。

▼医療の不確実性について考える[2017年10月12日]

https://www.asahi.com/articles/SDI201710094974.html

情報を「活用」するときの注意点

 正確で信頼できる情報を入手したあとは、その情報をもとに行動を起こすか起こさないかの意思決定をおこなう必要があります。

 ヘルスリテラシーの最終目標は「生涯を通じて生活の質を維持・向上させる」ことですから、そのための決断・行動の意思決定は重要です。ですが、病気の予防や健康の維持・増進に関して、諸外国と比べて日本人は情報の「活用」に苦手意識を持っている人が多いようです(※4)。

 例えば「メディア(新聞、ちらし、インターネット、その他のメディア)から得た情報をもとに、病気から身を守る方法を決めるのは?」「健康と充実感に影響を与えている生活環境(飲酒、食生活、運動など)を変えるのは?」という質問に対して「とても難しい」「やや難しい」と回答している人の割合は50%を超えています。

「医療の不確実性」に耐え 意思決定を

 では、この苦手意識を克服するためにはどうしたらいいのでしょうか?

 筆者自身、明確な回答を持ち合わせているわけではありません。個人的なアドバイスとしては「医療の不確実性に耐えること」が情報を活用する際のポイントになるのではないかと考えています。

 正確で信頼できる情報でも必ず医療の不確実性が伴います。つまり、正確で信頼できる情報を入手して、その情報通りに行動しても、効果が確実に保証されているわけでありません。

 しかし、人間誰しも、将来が不確実だと決断・行動の意思決定はできにくいものです。また、せっかく行動に移しても望む結果が得られなかったという失敗は避けたいと考えるでしょう。

 ここに落とし穴があります。

 不確実性のあることはいやだと放棄したり、過度に失敗を恐れたりすることは、「◯◯するだけで病気知らず」「運動しなくても◯◯だけ飲めばダイエット成功」といった不正確で信頼性の低い情報に惑わされてしまうことにつながりかねません。

 これでは、せっかく情報を「入手」「理解」「評価」する能力を身に着けても元の木阿弥(もくあみ)です。

 ですから、ヘルスリテラシーの最後の関門である情報の「活用」能力を鍛えるためには、正確な健康情報には必ず不確実性が伴うことを知り、その不確実性に耐えつつ、決断・行動の意思決定をすることが重要になってくるのではないでしょうか。

【参考文献】

1)Sørensen K, et al. Health literacy and public health: a systematic review and integration of definitions and models. BMC Public Health. 2012;12:80

日本語訳:http://www.healthliteracy.jp/kenkou/post_20.html別ウインドウで開きます

2)Nakayama K, et al. Comprehensive health literacy in Japan is lower than in Europe: a validated Japanese-language assessment of health literacy. BMC Public Health. 2015;15:505

3)Duong TV, et al. Measuring health literacy in Asia: Validation of the HLS-EU-Q47 survey tool in six Asian countries. J Epidemiol. 2017;27:80-86.

4)健康を決める力「日本人のヘルスリテラシーは低い」(http://www.healthliteracy.jp/kenkou/japan.html別ウインドウで開きます

5)東京都「健康と保健医療に関する世論調査」(平成28年10月実施)http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/03/07/01.html別ウインドウで開きます

大野智

大野智(おおの・さとし) 島根大学・教授

島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、日本緩和医療学会ガイドライン統括委員(補完代替療法分野担当)も務める。

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