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 がん検診には利益と同時に害もあり、検診を受ける年齢が早いほどよいわけではありません。がん死亡率が低い若年者では利益より害が上回ります。そうしたことを考慮して、がん検診の推奨開始年齢が定められています。では、何歳までがん検診を受けるべきでしょうか?

 一般的に、がんの死亡率は高齢であるほど高いです。しかし、あまりにも高齢であると、検査やがんの治療による合併症のリスクが大きくなります。さらに、余命が短いと検診から得られる利益も小さいです。極端な話、今にも寝たきりになりそうな100歳の高齢者に対し、無症状のがんを発見して手術することがいいと考える人はいないでしょう。

 がん検診に適した年齢層というものがあるのです。がん死亡率がそこそこ大きく、検査や治療に耐えられるだけの体力があり、十分な余命もある世代です。この世代でもっともがん検診の有効性が大きく、その世代より若くても高齢でも、がん検診の有効性は小さくなり、どこかの時点で利益と害のバランスが崩れます。

 諸外国では、がん検診の推奨年齢の上限が国のガイドラインなどで定められていることが多いです。たとえばアメリカ合衆国では、子宮頸(けい)がん検診は65歳まで、乳がん検診は74歳まで、大腸がん検診は75歳まで(ただし、76歳~85歳は個別に判断してもよい)です。がん検診の有効性を検証した研究が根拠になっています。

 日本では、現在のところ、がん検診の推奨年齢の上限はもうけられていません。理由はさまざまでしょうが、一つは高齢者は個人差が大きく、一律の線引きがそぐわないからでしょう。病弱な74歳が検診を推奨される一方で、すごく元気な76歳が推奨されないのは非合理的です。しかし一方で、目安すら示されなければ、どんなに年を取っても検診を受けた方がいいという誤解を放置することになりかねません。今後は日本でも、諸外国と同じように、がん検診の推奨年齢に上限が示されるようになるかもしれません。

 がん検診は、他の医療行為と同じく、個別の事情が十分に考慮されなければなりません。同時に、他の医療行為と同じく、十分な情報提供、つまりインフォームド・コンセントが行われた上で、がん検診は行われるべきだと強く考えます。推奨年齢に上限がもうけられたとしても、あくまで目安であり、個々の健康状態や価値観を考慮した上で、検診による利益と害について説明され、検診を受けるかどうかを個人個人が判断するのが理想です。

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(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。