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 「どうして、いつも腕を組んでいるんですか?」。高校生くらいの頃、頸髄損傷で車いすに乗っている男性Sさんに、尋ねてみたことがありました。すると、「最近、体幹が弱くなってきてね〜。こうしていると楽なんだよ」という答えでした。人知れない苦労と工夫があるのだと納得した記憶があります。でも当時の私にとって、Sさんの話は、ひとごとだったのです。

 ある時、腕を組んでいる自分に気が付いた。そして振り返ってみると、最近よく腕を組むようになった気がする…。いつのことかは定かではないのですが、そんなことに気づいたのは20代半ばのことでした。

 気が付いた当初は、なぜ腕を組んでいるのか自分でもよく分からず、理由を探しても思い当たる節はありません。なんとなく印象が悪いから控えよう、そう思っただけでした。

 そして、しばらくしたある日、ピンときたのです。7〜8年前、あのときSさんが言っていた「こうしていると楽」というのは、こういうことだったのかもしれない。そう思いながら、自分が腕を組んでいた場面を思い出してみると、すべてに合点がいきました。

・自分で車いすをこいでいた頃の信号待ち

・立ち話が長くなったとき

・テーブルの高さが合わなくて、ひじをつけないとき

・車いすから椅子やソファへ移ったとき

・片手で本を持って読んでいるとき

などなど。

 どの場面も、体幹だけで座っている姿勢を保つのが辛いから腕で支えたい、でもそれがかなわない状況という点で共通していたのです。腕を組むことによって、体幹の補強になるのでしょう。ようやく実感をもって「あの言葉」の意味を理解することができました。

講演するようになって生まれた悩み

 けれども、腕を組んでいると、なんだか偉そうに見えてしまうのが難点です。インターネットで検索すると、腕を組む人の心理とかの類がたくさん出てきました。やはり、あまり良い印象を与える格好ではないことは確かです。

 講演などで人前に立つ機会が増えるにつれて、ある悩みが生まれました。マイクを持つことがつらいのです。もちろん、持たなくて済む方法として、まずはピンマイクやマイクスタンドを試そうとしました。動きながら話すことや、身ぶり手ぶりのしやすさは抜群です。でも、逆効果でした。次第に身体が安定せず、支えがほしくなってしまいます。結局は、あえてマイクを持つ方が体幹の保持につながることが分かったので、それで落ち着いていました。

 でも、やっぱりつらいというのが、ここ2〜3年の話です。例えば、右腕でマイクを持っているとしたら、左腕を組んで右ひじを支えたい衝動にかられるのです。これが年も立場も高い人が腕を組んで話すのなら許されるかも知れません。

 しかし、若輩者が病気の体験談を話したり、セミナーの講師だったりする場合にはそぐわないのでは、と気になって仕方ありません。話す内容はもちろんのこと、相手に与える印象も含めてひとつの講演と考えると、がんばれる間は、きちんとマイクを持ちたいと思ってしまうのです。

 その一方で、ユニバーサルマナー検定の講師など、障害理解をテーマにした演題であれば、あえて理由を話した上で、無理のない姿勢でマイクを持つこともアリなのかなとも思います…。体幹が弱いから腕を組みたいなんて、きっと誰も想像できません。だからこそ、自分から話して周囲の理解を得る、そんなプロセスが重要だったりします。

目の前の人とのコミュニケーションを取りながら…

 Sさんは、こうも言っていました。「怒っているように見えるかもしれないけど、そんなことはないんだよ。」Sさんもまた、腕を組んでいることで、相手に不快な思いをさせていないだろうかと心配していたのです。

 障害の有無に関わらず、置かれている状況は皆さまざまです。物事を表面的に見るのではなく、本質を見つめること。そして、目の前の人ときちんとコミュニケーションを図ることはとても重要。Sさんの言葉と腕組みにまつわる経験を通じて、そうした思いを再認識しました。

<アピタル:彩夏の〝みんなに笑顔を〟>

http://www.asahi.com/apital/column/ayaka/(アピタル・樋口彩夏)

アピタル・樋口彩夏

アピタル・樋口彩夏(ひぐち・あやか)

1989年、東京生まれ。中学2年の時、骨盤にユーイング肉腫(小児がん)を発症。抗がん剤、重粒子線などの治療を経て、車いすでの生活に。「いつ、誰が、どんな病気や障害をもっても、笑顔で暮らせる日本にしたい!」を目標に日々、奮闘中。当事者の視点から建設的に伝えることをモットーに執筆・講演も行っている。

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