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 黄熱(黄熱病)はアフリカ大陸や中南米の熱帯地方に流行する風土病です。かつては北アメリカやヨーロッパでも流行しました。重症例では発熱に加え黄疸(おうだん)を生じ、病名の由来になっています。重症化すると致死率は数十%という恐ろしい病気でした。

 黄熱は蚊が媒介するウイルスによって起こると現在ではわかっています。自然状態では野生のサルがキャリアですが、蚊を介して人に感染し、さらに都市に持ち込まれると大流行して多くの人が亡くなっていました。

 黄熱の原因は熱帯の土壌や水から立ち上る瘴気(しょうき=ミアズマ)が原因だと考えられてきましたが、19世紀終わりごろに細菌学が進歩してからは感染症という説が有力になります。しかし、コレラ菌や結核菌と違ってウイルスは顕微鏡では見えませんので、黄熱で亡くなった患者の体を詳細に調べても原因はわかりません。

 黄熱の病原体がウイルスであることがわかるずっと以前の1900年に、アメリカ合衆国陸軍の調査委員会は、キューバにおいて黄熱が蚊によって媒介されることを証明しました。その証明方法は、まず黄熱病の患者に蚊を刺させ血を吸わせて、次にその蚊を健康な人に刺させ、黄熱を発症するかどうかを観察するというものです。当然、危険を伴います。

 予備的な実験では軍人や研究者の志願者11人が蚊に刺させ、うち2人が黄熱を発症しました(この2人は回復しました)。9人が発症しなかったのは、おそらく、蚊に患者の血を吸わせてから被験者に吸わせるまでの期間が短く、蚊の体内でウイルスが十分に増殖しなかったからでしょう。しかし、当時はそんなことはわかりません。2人が黄熱を発症しましたが、もしかすると蚊は関係なく、たまたま自然に感染したのかもしれなかったのです。

 実験を繰り返して結果を再確認したいところです。研究チームの一人、細菌学者ジェシー・ラジアは1900年9月13日、蚊に自分の体を刺させました。ラジアは、数日後に黄熱病を発症し、9月25日に死亡しました。実験の詳細はノートに記録されていました。ラジア死後も同様の実験が行われ、確かに蚊が黄熱を媒介することが証明されました。

 病原体の正体が不明でも、蚊が媒介することがわかれば、感染対策が可能です。蚊を徹底的に駆除することで黄熱の(およびマラリアも)流行を抑制できます。パナマ運河の建設に成功したのも、蚊の駆除によって熱帯病の流行がコントロールできるようになったためです。

 ラジアをはじめとした感染実験の被験者のおかげで何万人もの人が命を落とさずに済みました。現在でも黄熱が発生している地域はありますが、有効なワクチンがあります。流行地に旅行するなら、蚊に刺されないようにするだけでなく、ワクチンを接種してください。

 ※参考:Clements AN and Harbach RE., History of the discovery of the mode of transmission of yellow fever virus., J Vector Ecol. 2017 Dec;42(2):208-222.

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。