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 怒りは誰もが抱く感情です。しかし、怒りの感情は私たちを揺さぶり、つい余計なことを言ったり不適切な言動をかき立てたりして、少々厄介なことがあります。

 これまで、怒りが発生するメカニズムや物事の捉え方を変える方法などを紹介してきました。それでも、怒ったときに冷静に自分の価値観や、相手に伝えたいことを明確にするのはなかなか難しいものです。

 私たちを怒らせるのは、目の前の相手や何かの出来事ではなく、自分がもっている価値観です。目の前の現実が、自分の価値観や期待値とは異なるときに、怒りが生じます。この価値観や期待値は、人それぞれに異なるのですが、自分にとっては当たり前、当然、普通なことであり、「自分と人は違う」とは意識し難いのです。

 誰かが何かをやらかしたとき、こんな言い方をする事はありませんか?

 ・ありえない!

 ・信じられない!

 ・冗談でしょ!

 ・普通そういう事はしないよね!

 ・これって常識なんだけど!

 

 医療や介護の現場における安全管理を例に見てみましょう。

 

 「介護者が付き添っていたのに、〇〇さんが転倒したのですって」

 「えー、付き添っていたのに転倒って、ありえないでしょ!」

 

 「〇〇さんの薬が準備されていなかったよ」

 「朝、準備するように言ったのに、やってくれないなんて、信じられない」

 

 医療や介護を利用する側、あるいはご家族が読んだら不安に思われるかもしれませんが、安全に絶対的な保証はできないのが現実です。もちろんどの組織でも、高齢者の転倒や薬の間違いなどの事故やミスを防止するために、工夫を重ね努力しています。わざと事故を起こそうとして働いている職員などいません。それでも、ときに想定外の事態が起きるのです。

 職員の立場に戻ると、誰かのやったことが自分の価値観と異なれば、「ありえない」「信じられない」と言いたくなるかもしれません。しかし、それが口癖になっているようなら要注意です。

 職場にはチームとして注意していること、暗黙のルールなどがあって、そこから外れた出来事に対しては怒りが生じることがあります。特に毎日一緒に働いているからこそ、「説明したのにできなかった」「注意してと言ったのに、ミスが起きた」などという思いが生じ、怒りが強く現れやすくなります。

 でも、たとえミスをした同僚に対して苛立ったとしても、こちらからは出来事の一部分しか見えていないと言う場合もあります。一見するとありえないと思うようなことでも、詳細がわかってくると何かの事情が出てくることもあり得るのです。実は多くの人がつまずきやすいポイントで、職場のルールの方を見直したほうがよい、という場合もあります。一部分だけをみて、「ありえない」と決めてしまうのは危険です。何事にも絶対はありませんし、自分の価値観だけが絶対的ということはありません。

 

 また、「ありえない」「信じられない」と言う側は軽い気持ちでも、言われた側は全人格を否定されたような深い傷を負う場合もあります。怒ったときに勢いで発してしまう言葉は、意図せず相手を傷つけてしまう場合があることを意識しておく必要があります。

 イラっとしたときに、つい出てしまう口癖はありませんか? 決めつけや必要以上に誇張した表現を使っていませんか? 振り返ってみてください。

 

 イラっとして「つい」出てしまう言動が、意図せず相手を傷つけ、自分の後悔につながることがあります。次回から、こうした衝動的な言動をコントロールするスキルを紹介します。

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。