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 厚生労働省の推計では、認知症の人が2025年には約700万人にのぼるとされています。これは65歳以上の5人に1人が認知症になることを意味します。そうなると、認知症を予防できる方法はないかと誰しもが考えるかと思います。そこで、ちょっと耳寄りな情報として、最近、緑茶と認知症の関係を検証した研究結果が報告されました。緑茶を多く摂取すると認知症のリスクが低減するというものです。今回、その内容について紹介するとともに、結果を解釈する上での注意点について解説したいと思います。

▼高齢化に伴い認知症患者が増えている

▼認知症を予防・治療する医薬品については効果が不十分との議論がある

▼最近、緑茶を多く摂取すると認知症のリスクが低減することを明らかにした研究結果が報告された

 高齢社会の宿命だと言えますが、認知症と診断される人が増えています。政府は6月18日、認知症施策推進関係閣僚会議にて「認知症施策推進大網(案)」(※1)を公表しました。認知症になっても安心して暮らしていける「共生」と認知症になるのを遅らせたり認知症になっても進行を緩やかにしたりする「予防」を車の両輪として、2025年までの取り組み方針がまとめられています。そして、大網には「薬剤治験に即刻対応できるコホート(集団:筆者注)を構築」「日本発の認知症の疾患修飾薬(進行を止めたり遅らせたりする治療薬:同)候補の治験開始」など医薬品の開発も盛り込まれています。

 認知症治療薬に関しては、昨年、フランスで効果が不十分との理由で医療保険の適用から外されることが話題にもなりました。

◎抗認知症薬の効果「不十分」 仏、4種類を保険適用外に[2018.6.23]

https://www.asahi.com/articles/ASL6N6TW4L6NULZU013.html

 そのような状況の中、日本人になじみの深い「緑茶」が認知症予防に効果があるのかどうかを検証した研究結果が最近報告されました(※2)。筆者はサントリーの研究者の方々で、今年5月にスイスの科学雑誌に掲載されました。

緑茶と言えば…カテキンによる予防効果のメカニズム

 結論についての解釈の前に、まずは緑茶が認知症予防に効果があるとするメカニズムとして、どのようなものが考えられているのでしょうか?緑茶には、渋み成分であるカテキン類など、さまざまなポリフェノール類が含まれています。それぞれの成分にはさまざまな作用があることがわかっていて、これまでに多くの研究が行われてきています。この論文で触れられている認知症予防に関して整理すると次のようになります。

◎カテキンによる抗酸化作用

 アルツハイマー病や脳血管性認知症の原因として酸化ストレスがあります。その酸化ストレスをカテキンが軽減することで認知症を予防するというものです。

◎エピガロカテキンガレートによるアミロイドβ凝集抑制作用

 アルツハイマー病の発症メカニズムにおいて、脳におけるアミロイドβの異常凝集および蓄積が重要であると考えられています。その異常凝集をカテキンの一種である「エピガロカテキンガレート」が抑制することで認知症を予防するというものです。

◎ポリフェノール類による抗炎症作用

 脳の炎症は認知症、特にアルツハイマー病との関連が指摘されています。その炎症をポリフェノール類が軽減することで認知症を予防するというものです。

◎ポリフェノール類による血管保護作用

 動脈硬化が進んだり血栓(血の塊)ができたりすると脳血管性認知症のリスクが高まります。ポリフェノール類が血管を健康に保ったり血栓が作られるのを抑制したりすることで認知症を予防するというものです。

 ここで、注意が必要です。上記のメカニズムについては、細胞や動物の実験で明らかにされているものの、「人ではどうなのか?」という点について明らかになっているわけではありません。「緑茶が認知症予防に効果がある」と言うためには、メカニズムの解明だけではなく、人を対象とした研究を実施する必要があります。

緑茶の摂取量と認知症リスク、どう調査した?

 今回紹介する論文は、緑茶の摂取量と認知症、アルツハイマー病、軽度認知障害、認知障害との関連を調査した観察研究のシステマティックレビューになります(※2)。システマティックレビューとは文献を網羅的に検索し、ランダム化比較試験のような質の高い研究のデータを集めて再分析し評価する手法です。

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 研究者らは、PubMed(※3)という世界的な医学データベースを使い関連するキーワードを用いて文献を検索し、8件の観察研究の報告を選び出しました。1966年から2018年までに、英語で書かれた論文など様々な条件を設け絞り込みました。8件のうち、コホート研究と呼ばれる調査が3件、横断研究と呼ばれる調査が5件でした。

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 コホート研究とは、現時点で認知症にかかっていない人を大勢集め、将来にわたって長期間観察し追跡を続けることで、緑茶の摂取量の違いが、認知症の発生または予防に関係しているかを調査する方法です。一方で、横断研究とは、ある集団のある一時点で、認知症の有無と緑茶の摂取状況を同時に調査し、関連を明らかにする方法です。つまり、後者の横断研究の対象者の方は、集団に入った時点で、認知症にかかっている方が含まれます。かかっていない方も含め、それぞれの緑茶の摂取量を比較する手法が採られました。

 気になる結果は次のとおりです。

◎緑茶摂取が好影響を示した:コホート研究1件、横断研究3件

◎緑茶摂取が限定的ではあるが好影響を示した:コホート研究1件、横断研究1件

◎緑茶摂取と関連は認められなかった:コホート研究1件、横断研究1件

 その上で著者らは「緑茶は認知症、アルツハイマー病、軽度認知障害、認知障害のリスクを低減する可能性がある」と結論づけています。ここで、どの程度緑茶を飲めばよいのか気になるところです。好影響を示したとする報告によると緑茶を1日1杯飲むと全く飲まない場合と比べて、統計学的に有意差を持って認知症などのリスクが減る結果となっているようです。

「結果」を解釈する上で注意すべきこと

 今回紹介した論文で取り上げられている個々の研究は「観察研究」と呼ばれる研究デザインで行われたものです。その場合、結果を解釈する上で注意が必要です。観察研究で気をつけなければならないのは、要因と結果という因果関係を明らかにする上で、そのどちらでもない第3の要因によって、検討している因果関係が影響を受けることです。これを統計用語で「交絡(こうらく)バイアス」と言います。

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 この論文で言えば、緑茶を多く摂取した集団は摂取していない集団より認知症が少なかったという結果が得られています。しかし、実は他に本当の要因(喫煙、運動、糖尿病など)があったにもかかわらず、たまたま本当の要因と緑茶の摂取量に相関関係があったため、あたかも緑茶の摂取量と認知症のリスクに関連があったかのようにみえたという具合です。

 もちろん、統計解析をする際に、その点にも配慮して検討を行っているわけですが、コホート研究や横断研究などの「観察研究」の結果からは、「緑茶が認知症予防に効く」との因果関係を断定的に結論付けることができない点には注意が必要です。このような説明を聞くと、筆者のことを疑い深い人間だと思う人もいるかも知れません。ですが、科学的に正確な情報を伝えようとすると、このような批判的吟味の手続きが必要になることを是非知っておいてほしいと思います。

緑茶を多く飲む人が他に得ているものとは?

 ですが、その一方で、科学には自由な発想も求められてきます。ここからは、筆者の想像に基づく仮説に過ぎない話を少ししてみたいと思います。もしかすると、ちょっと科学的とは言えないかもしれないかもしれませんが、ご容赦ください。

 今回、緑茶を多く飲む人は認知症のリスクが減少しているという関連性が見いだされました。緑茶そのものに効果があったかもしれませんし、交絡バイアスの影響かもしれません。ですが、まだ知られていない、何か認知症のリスクに影響する要因があるかもしれません。私なりに別の要因について考えて見ました。ここで緑茶をよく飲む人の「飲む時の状況」を想像してみてください。

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 もしかすると、誰か他の人と一緒に飲んでいる場合が多いのではないでしょうか?もちろん、緑茶の香りや味を一人で味わう人もいるかもしれません。ですが、夫婦、家族、友人と一緒に飲んだり、ご近所づきあいで飲んだりすることが一般的には多いと思います(※裏付けデータがあるわけではなく個人的な想像の範囲での話です)。普段の生活における「人とのつながりの程度」や「会話の頻度」などは観察研究をおこなう上で、なかなか数値化することが難しい要素ではありますが、認知症予防に好影響を与える要素かと思います。

 つまり、この仮説が正しければ、緑茶をよく飲む人というのは、人とコミュニケーションを頻繁にとっている人であることを意味していることになります。それは社会とのつながりが増えてくることにもつながってきます。そして、コミュニケーションを頻繁に取るという行為が脳機能を活性化し認知症予防に影響してくる可能性があるのではないかと個人的には思いを巡らせています。

【参考資料】

1) 認知症施策推進関係閣僚会議(第2回)[2019.6.18]:認知症施策推進大綱(案) https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ninchisho_kaigi/dai2/gijisidai.html別ウインドウで開きます

2) Kakutani S, et al. Green Tea Intake and Risks for Dementia, Alzheimer's Disease, Mild Cognitive Impairment, and Cognitive Impairment: A Systematic Review. Nutrients. 2019 May 24;11(5)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31137655別ウインドウで開きます

3) 米国国立医学図書館が運営する医学分野の代表的な文献情報データベース[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/別ウインドウで開きます

(アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 島根大学・教授

島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、内閣府消費者委員会専門委員(特定保健用食品の審査)も務める。