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 このコラムでは、ADHDの30代女性・リョウさんが、初めての子育てに対して夫とともに奮闘する様子をお伝えしています。前回は、「ママ友」にモヤっとするときに、どのようにすればよいかをご紹介しました。その際に、育児に専念してそこに幸せを見いだして満たされているママ友をみて、リョウさんは「到底まねできない。私は母親に向いていないのかもしれない」と自己嫌悪に陥っていたのでした。今回は、ADHDママが陥りがちな育児への適性への悩みと、「ちょっと思考を変えてみる」という克服法についてご紹介します。

ADHDの脳が感じる「負担感」の違い

 前回もお話ししたとおり、子育て中の生活は、ADHDの脳が欲しがる「新しくて」「すぐに結果の出る」刺激的な生活ではないものです。

 育児が、どうしても「わくわく」するとか「飽きのこない」ものと言えないことは、ADHDでなくても誰でも共通することかもしれません。しかし、このわくわくしない感じの「程度」にずいぶん違いがあるとしたらどうでしょう。つまり、

 「ああ、年がら年中子育てには休みなしだ。我が子はかわいいけれど、たまにはひとりの時間も欲しい」

 これくらいの、おおむね毎日の育児に喜びは見いだしているものの、たまには休憩が欲しいというのは多くの方に共通する感覚なのではないでしょうか。しかし、

 「どうしよう。この育児がこの先10年は続くなんて……もう耐えられない。うんざりだ」

 ここまでくると、さすがに「大丈夫? それでやっていけるの?」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。

 このぐらいの負担感と、疲労感、そして自己嫌悪感をもって相談にみえるADHDの方はいらっしゃいます(もちろんADHDで母親になった方が全てそうというわけではありません)。知っていただきたいのは、「程度の差」が大きいということです。

新しいことが好き! 特性を生かす

 では、この「差」を少しでも埋めながら、ADHDのママが、育児生活をすすめていくにはどうしたらいいでしょう。

 それには、次のような思考ができることがポイントになります。

 「そうかあ、私が子育てを退屈だって思うのは特性としてしょうがないんだ。それでも何か子育てを楽しめるやり方を探そう」

 そうです。やる気がないわけでも、冷たいわけでもなくて、自分に向く育児のスタイルが他の人と違うだけなんです。

 それに、ADHDの脳は、「新しいこと」が好きで、「すぐに結果が出ること」も大好きです。こうした特性を受け入れて、育児にも生かしていくのです。

 

 もちろん育児は夫婦で行うものですし、夫もADHDの場合(リョウさんの夫もその傾向がありますね)、夫にとっても育児への課題は多くあります。ただ、リョウさんの家庭のように、リョウさんが専業主婦で、夫が働くというスタイルの場合、平日の昼間の時間はリョウさんがひとりで育児にあたらなければならず、圧倒的に負担感はママであるリョウさんにかかってくるわけです。そのため、あえて「母親」という視点からご紹介していきます。

なかなか進まない子どもの食事、対処法は

 さて、最近のリョウさんが困っているのは、3歳の娘のごはんを食べるスピードが遅いことです。偏食も激しく、なかなか手を焼いています。あげくの果てに、テレビに見入ったり、おもちゃで遊び始めたり……。

 幼稚園に送り出すための忙しい朝に、30分以上たっても食べ終わらない我が子にイライラしています。ご飯は1日3回もある繰り返しのこと。毎日、毎日のことですし、自分で作るご飯には、そんなにレパートリーはないので、作るのもすぐに飽きてしまいます。

 リョウさんは食事の時間が苦痛になってきています。

 

 これは小さい子どものいる家庭で、よくある風景ではないでしょうか。

 思春期を迎える頃にはよく食べるようになるかもしれませんが、まだまだ先の話です。

 育児関連のテレビや書籍では、調理の工夫をするとか、盛りつけの工夫をするとか、子どもと一緒に調理するといいとか、楽しい食事の雰囲気を……と参考になる情報があります。が、もっともでありながらも、リョウさんにとっては負担感が増すばかりで魅力的に思えず、どれも続けるやる気がわきませんでした。

 この状況を改善するためのポイントは2つです。

 1つめは、子どものご飯を食べるスピードを上げること。

 2つめは、そのためのかかわり自体を親が楽しめること(飽きないこと)。

子どもに達成感を味わわせる

 まず、リョウさんの子どもの、食べるスピードが遅い状況を詳しくみていきます。

(原因その1)

・朝食中にテレビに夢中になって、手が止まっている

・ダイニングテーブルの上におもちゃがあって、それで遊んでいる

 要は、ご飯以外のものに気をとられてしまっているというわけです。これについての対処は簡単です。ご飯以外の興味を引きそうなものを目につかないところに移動させたり、隠したりしてしまうとよいのです。

 具体的には、テレビを消して、おもちゃを視界から離します。

 

(原因その2)

・早く食べることで、子どもにとってなんにもよいことが起こらない(よい結果がない)

 大人からすれば、段取りよく朝の準備が進むことはそれ自体が爽快です。しかし、3歳の子どもにとっては、「ゆっくり食べた後に困ることはなにもないし、むしろ長くお母さんと一緒にいられる」といったメリットがあるのかもしれません。

 また、「早く食べる」といっても、例えば20分間で朝食を済ませることをゴールにしたところで、子どもにとっての20分先は大人より遠く感じられるようなのです。つまり、「ゴールまでが長くて、頑張り続けることに飽きる」というわけです。

 もう少し、進み具体と達成するメリットが、子どもにとってわかりやすい仕組みが必要ですね。

ゲーム感覚で、一皿ずつクリアする

 この対策としては、回転寿司が参考になります。

 回転寿司は、1~3貫ごとが小皿にのって流れてきますね。1皿ごとに出されると、ついつい「まぐろも」「はまちも」と手が伸びて、食べ終わるとお皿が高く積み上がってしまっていたということはありませんか。

 もしもお寿司が大きなお皿に一気に出されていたら、これだけの量を食べることはできなかったかもしれません。細かい単位で1つずつ区切られて行くと、1つずつを消化するのは簡単に思えて、総量として大きなことが達成できるのです。千里の道も一歩からともいいますね。

 この原理を使うのです。食べて欲しいご飯の全体量を、一口サイズくらいの小分けにお皿に入れて、次々にゲーム感覚でクリアに導くのです。できれば、1つクリアごとに効果音を鳴らして喜んであげる、クリアすると達成度を手の高さで示して「このくらいまできた!あと少し」なんて言いながら視覚化するのもいいでしょう。毎日できる手軽な方法にするのが手です。

 洗う食器の量が増えるのだけが難点ですが、イライラしながら遅い食事につきあうよりは、ましかもしれません。「時計の針が6にくるまでに10皿食べられたら、余った時間でかわいい三つ編みをしてあげよう!」などのご褒美が設定できるとなおいいですね。

写真・図版 

 ここまでが子どもの状況への介入方法です。

 介入方法だけを読むと「え、親になると朝からこれだけの努力がいるの」とうんざりしてしまうかもしれません。確かに、介入が奏功すれば、ADHDのママは気分もすっきりするかもしれませんが、我が子にぴったりの朝ご飯のときの環境の設定がうまくいくか、ご飯の小分けの量が適切か、ぐっとくるご褒美が設定できるかは、何度か試さなければわからないものです。それに3歳の子どもはよくぐずりますし、その日のご機嫌によってもずいぶん振り回されることでしょう。

頑張ったママに、ささやかなご褒美を

 なので2つめのポイントである、リョウさん自身がそのかかわりを楽しめる工夫が必要なのです。

 「ごはんくらい短時間で食べて当たり前」という考え方で我が子にイライラしているのなら、我が子の現状をみつめた現実主義になって「そうか。この子は、何か工夫しないとご飯を食べるのが遅い子なんだ」と受け入れ、工夫する姿勢に変えていくのです。

 また、我が子を見ていると、自分の子ども時代を思い出して、よくご飯を食べるのが遅いとおこられていた思い出がよみがえるため、イライラしてしまう人もいます。こうした場合には、「かつての子どもだった自分が、本当は親にどうして欲しかったかな?」と考えることで、優しい視点を取り戻すことができるでしょう。

 こうした下準備の上で、少しでも我が子が食べるのが早くなって幼稚園に送り出し、いつもより5分でも10分でも余裕ができたら、その時間でしっかり自分にご褒美をあげるとよいでしょう。

 たとえば、いつもならインスタントですませるコーヒーも、10分あれば丁寧に豆を挽いてドリップできます。いつもより早い時間に一人時間を始めることができれば、いつもは聞き逃していたラジオ番組が聞けるかもしれません。

 こんなささやかな楽しみをしっかりと自分にあげることで、長くて単調な日々の暮らしにメリハリがつくと思いませんか?

 「今日は回転寿司方式で我が子の朝ご飯を用意することができた。(我が子がそれでスムーズに食べても食べなくても)そういう努力ができた自分にご褒美」とカレンダーのその日の日付に○をつけていくというのも励みになるものです。夫とこの工夫を共有しながら、「それじゃ今度はこの小皿でやってみよう」とか、「ご褒美はこれがいいんじゃない?」とかアイデアを出し合うのもよいでしょう。

 こうすれば、苦痛だった食事の時間が、創造性を生かしながら取り組める課題、になりますね。

 

 いかがでしたか? それでも親をするってなかなか忍耐力がいりますね。

 工夫次第で前向きに我が子の成長を促せますし、自分にご褒美の習慣もとりいれながら、長く努力できるといいですね。

 

生きるのがつらい女性のADHD
仕事も恋愛もうまくいかなかった……。ADHDに悩む「リョウさん」のこれまでの歩み

<お知らせ> ネットでさまざまなお悩みを相談できます

 このコラムの筆者の中島が、北九州市にある精神科クリニック「かなめクリニック」にて、オンライン診療を担当しています。診断の有無にかかわらず、インターネットを用いて認知行動療法などのカウンセリングを行います。ご相談内容は、ADHDに限らず、気分が落ち込んで引きずってしまう、不安でたまらない、食べ過ぎや飲み過ぎ、薬に依存してしまう、性犯罪に関するものでも幅広くお引き受けします。ご家族からの相談も受け付けます。みなさまのご相談をお待ちしております。

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<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。