[PR]

 車いすユーザーの困りごとと言えば、「歩けない」という点にばかり目が行きがちです。でも、他人には話しづらい問題も、実はたくさんあったりします。そのひとつとして、ドラマ「パーフェクトワールド」で、車いすの主人公が尿失禁をするシーンがありました。そうです、日に幾度も訪れる生理現象・排泄(はいせつ)をマスターしないことには、日常生活がままならないのです。

 実は、私の膀胱(ぼうこう)には、いつもカテーテルを入れたままにしています。「留置」と呼ばれる状態です。その経緯については、以前にも本コラムで書いたことがあるのですが、そもそもは中学生の時にユーイング肉腫を発病したことがきっかけでした。ユーイング肉腫が排泄機能をつかさどる神経を侵食していたため、自分の力で排泄をすることができなくなってしまったのです。

 もう少し説明をすると、そもそも、私には「したい」という感覚がありません。尿意も便意もない、という状況です。ですから、トイレに行くタイミングがわからないのはもちろんのこと、我慢することすらできません。もし何も処置をしなければ、漏れてしまいます。しかも、腰から下の皮膚の感覚もないので、漏れていることにすら気づけないのです。そうした状態と向き合ったのが高校時代でしたから、それは多くの葛藤を抱えることになりました・・・。

 そんな私の排尿を補ってくれるのが、膀胱に留置しているカテーテルです。尿が生成されて膀胱にたどり着くと、そこに留まることなく、カテーテルを通して大きな袋へ流れていきます。2リットルほどためていられるので、車いすで入れるトイレを探し回る必要もなければ、夜もぐっすり眠れます。あと何時間でトイレに行かなきゃ、と気をもむ必要もありません。排泄に関して人の数倍も気をつかわなければいけないことを考えると、トイレに振り回されずに済むというだけで生活の質は「爆上がり」です。バルーン留置は、快適な排尿管理でした。

 しかし、何事にも一長一短があります。常に尿道から、カテーテルという異物を挿入していることになるので、感染とはいつも隣り合わせです。「いつかはカテーテルを抜かなければいけない・・・」。ストレスフリーな日々の裏では、「脱・留置問題」がいつも頭をかすめていたのです。

バルーンカテーテルよ、さらば・・・

 それと向き合うときは、突然やってきました。5月末、尿道入り口の粘膜が傷ついて、ただれ、「びらん」してしまったのです。長期間、尿道にカテーテルを挿入していたことが原因でした。整形外科の主治医は、放っておくと、潰瘍(かいよう)になって骨盤内感染に及べば命に関わる、と説明していました。直接的にびらんを診る皮膚科からも、カテーテルを抜いてほしいという意見が出されました。泌尿器科的な問題はさておき、半ば強制的に、カテーテルを抜かざるを得ない状況となり、新たな試行錯誤が始まったのです。

 ずばり、目標はカテーテルを留置しない排尿管理です。このとき、選択肢の幅が男女で大きく異なります。男性であれば、コンドームタイプの「収尿器」というものがあり、それをはめれば、はい、解決。尿道を傷つけることなく、バルーン留置と同じようなスタイルで管理することができます。

 けれども女性の場合、身体の構造上、そういったものを造るのは困難です。少し調べてみると、興味深いものがありました。1987年2月に掲載された論文が、まさに、私が今悩んでいる状況そのものだったのです。(出典:京都大学医学部泌尿器科学教室が発行する学術誌・泌尿器科紀要 第33巻 第2号1987年2月号:女性脊髄損傷患者の尿路管理に関する考察 - 28症例の検討)男性に比べて女性の排尿管理の難しさを指摘・考察する内容ですが、30年余り前から進展がないということには驚きを隠せません。

 その一方で、男性の排尿管理事情は確実に進んでいるようです。ちょうど、車いすバスケの友人たちとの食事会があったので、相談を持ちかけてみたところ、コンドーム型収尿器の進化ぶりがハンパない! らしいのです。少し前までは、けっこう外れやすくて、車いすの乗り降りなどの動作で外れ漏れちゃうこともあったそうです。その対策として、収尿器を外陰部に縛り付けるなどの工夫をしてみるけれど、局所的な圧迫で縛ったところが床ずれになるなど、使用する中での苦労も多かったとのことでした。それが、最近のものでは、収尿器内側全面が粘着仕様に進化し、外れることも皆無になっただけでなく、皮膚がかぶれることもないという大進化。安心快適になったと言います。実物を見せてもらいましたが、なんとなく良さそうな雰囲気で、このときばかりは、男になりたい! と思ってしまいました。

入院して取り組む「10年越しの大博打」

 少し話が逸れましたが・・・。それで、私がどうしたか。実は6月中旬から入院をしています。排尿に関する基礎検査を行いつつ、骨盤に負荷のかからない導尿姿勢を作業療法士さんと模索しはじめました。私なりの、新たな排尿手段を獲得していくための時間です。泌尿器科の主治医の言葉を借りれば、「よし、やりますか! 10年越しの大博打(ばくち)」。その言葉に思わず笑ってしまいましたが、一筋縄ではいかないことは必至です。

 以前にも書いたことがありますが、排泄障害の悩みはやはり、一番困ります。トイレに不安があるというだけで、水分をとることを控えたくなったり、食べることを躊躇したり。さらには、失禁が怖くて外に出るのが億劫(おっくう)になるなど、生活のさまざまな部分にほころびが生じるのです。体調が悪いわけではないけれど、地味につらいのです。

 車いすユーザーのすべてではないけれど、そんな状況が隠れているかもしれない--。そのことを知ってもらえたら、心の負担も少しは軽くなるかもしれません。さあ、病院での私の挑戦がどんな結末となりますか。またご報告します。

<アピタル:彩夏の〝みんなに笑顔を〟>

http://www.asahi.com/apital/column/ayaka/(アピタル・樋口彩夏)

アピタル・樋口彩夏

アピタル・樋口彩夏(ひぐち・あやか)

1989年、東京生まれ。中学2年の時、骨盤にユーイング肉腫(小児がん)を発症。抗がん剤、重粒子線などの治療を経て、車いすでの生活に。「いつ、誰が、どんな病気や障害をもっても、笑顔で暮らせる日本にしたい!」を目標に日々、奮闘中。当事者の視点から建設的に伝えることをモットーに執筆・講演も行っている。

こんなニュースも