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 免疫系は本来、がん細胞や病原体といった異物を攻撃する役割を果たしています。ふだんは自分の組織を間違って攻撃しないよう制御されていますが、他者と自己をうまく区別できず免疫系が自己を攻撃するようになった状態が自己免疫疾患です。自己免疫疾患が起きる仕組みは明確にはわかっていませんが、その一端をギラン・バレー症候群が教えてくれます。

 免疫とは、体を守るしくみです。「病を免れる」という意味です。この免疫反応を起こさせる細菌やウイルス、毒素などの異物を「抗原」と呼びます。そして、体に侵入してきた抗原に反応して、細菌を攻撃したり毒を中和したりしてくれるのが「抗体」です。

 ギラン・バレー症候群は免疫系が自分の神経組織を攻撃して起きる自己免疫性疾患ですが、その多くは感染症にかかったあとに発症します。そして、ギラン・バレー症候群の患者さんの免疫系が攻撃している自分の体の組織と、細菌などが持っている組織が類似していることが知られています。

 ギラン・バレー症候群の発症機序は、現在の研究ではこんな感じです。まず、自分の体と似た組織を持つ細菌やウイルスが感染します。免疫系は一所懸命にこの細菌やウイルスを攻撃しますが、よく似た自分の体も誤って攻撃します。その結果、神経が障害されてさまざまな症状が出ます。

 ギラン・バレー症候群の治療法の一つは血漿(けっしょう)交換です。血漿中に含まれる自己組織を攻撃する抗体を除去することで効果を発揮します。感染は一時的なものですから、ウイルスや細菌が体から排除されると免疫系の攻撃も落ち着き、徐々に神経組織も回復します。

 興味深いことに、同じ種の細菌でも、持っている抗原によってギラン・バレー症候群の発症しやすさや症状の出方が違っています。人間の神経組織に似ている抗原を持っている菌株がギラン・バレー症候群を起こしやすいと考えれば、説明できます。

 細菌が自己抗原と似ている抗原を持っているのは、おそらく偶然ではなく、免疫系の攻撃から逃れようとしていると思われます。「分子擬態」と呼ばれます。免疫系の立場から見れば、攻撃しなければ感染症が悪化し、攻撃すれば自己免疫疾患になるというやっかいな存在です。

 ギラン・バレー症候群ほど明確ではありませんが、細菌やウイルスの感染をきっかけに発症する自己免疫疾患は他にもあります。感染した人のうち、自己免疫疾患を発症するのはごく一部ですし、実際には感染症以外にもさまざまな要因が関与する複雑な病態ですが、分子擬態が自己免疫性疾患の発症に関係しているのは確かです。

 将来は、特定の感染症を治療することで自己免疫疾患を治したり、がん抗原に類似したウイルスを意図的に感染させることで免疫系にがんを攻撃させたり、といったことが可能になるかもしれません。

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。