夏休みの宿題、計画的に進めるには 全体像の把握がカギ
このコラムでは、ADHDの30代女性・リョウさんが、初めての子育てに対して夫とともに奮闘する様子をお伝えしています。……が、今回から少し番外編です。もうすぐ始まる子どもの夏休みに、宿題をいかに計画的に進めるかを特集していきます。
みなさんは、お子さんの夏休みの宿題に毎年頭を悩ませていますか?「大丈夫。うちの子は計画的に自分でやるから」と即答できるごくごく一部の幸運な親を除いて、多くの親にとって、長い長い夏休みに子どもに宿題をさせることは悩みの種です。国民的漫画のちびまる子ちゃんも、ドラえもんののび太くんも、夏休みの最終日に顔色を変えて宿題にとりかかる姿は印象的です。
どうして、このようなことになるのでしょう。
そして、かつての子どもだった私たちも、果たして計画的に夏休みの宿題をこなしていたのでしょうか。
1日では終わらない、夏休みの宿題のやっかいさ
夏休みの宿題というのはとてもやっかいな要素からできています。
どんな集中力を持っていても1日ではこなせない仕組みがあるからです。
最も多くの子ども――特にADHD傾向をもつ子ども――を悩ませるのは、「アサガオの観察日記」などの類いの「持続的」な課題です。いわゆる、コツコツ取り組まなければならないものです。
また、「自由研究」や「工作」「ポスター」などの課題は、算数や国語のドリルなどの課題に比べると、手順が不明瞭で、どこまでやれば終わりかわかりづらいのも困ったところです。我が子が雑に仕上げた絵のあちこちに、色の塗りむらを見つけてやり直しを命じる親はよくいることでしょう。
しかし、本当に親子を悩ませるのは、これらの課題に「とりかかる気がしない」ことかもしれません。やる気にさせて、とりかからせる、そのスタート時点に立たせる作業だけで、壮絶な親子げんかが繰り広げられるかもしれません。
さて、こうした親子関係にも影響する(かもしれない)夏休みの宿題。子どもが計画的にできない原因は、大きく分けると、次の三つです。
子どもが夏休みの宿題につまずく原因
その1:ゴールおよびゴールまでの工程の全体像が把握できていない<br> その2:時間当たりの作業量の見積もりが甘い<br> その3:1カ月という長いスパンの時間感覚が不正確
今回はこの1番目の原因「ゴールおよびゴールまでの工程の全体像が把握できていない」について解説します。
自由研究って何やればいい? イメージが沸かないときは
小学校低学年の子どもにとって、「自由研究」「工作」「ポスター」などはこれまでにあまり経験のない課題です。大人はこれまでの経験から「あんなふうに書けたらいいんだな」とゴールをイメージできますが、初めての子どもにとっては、ゴールがイメージできません。
そこでおすすめは、民間団体などが行っている自由研究コンクールのこれまでの受賞作品を見せるなどして、どんなものが求められている宿題なのかを子どもに視覚的に伝えます。たいてい、作品募集のホームページなどに過去の作品例がのっていることでしょう。
これは早ければ早い時期の方がおすすめです。夏休みが始まるとすぐにするといいでしょう。早くゴールを描くことができれば、早く計画的な毎日をスタートできます。
アイデアを思いつくって、どうやるの?
ただ、ゴールを描くことができても、どのような工程でたどり着けるかを知らなければ、進めていくことができません。この「工程を整理して全体像を把握する」作業は意外と軽視されがちですが、とても重要です。
自由研究を進めるにあたって必要なステップはこんなかんじでしょうか。
①自由研究のアイデアを思いつく
②研究をする
③結果をまとめる
さあ、どうでしょう。この手順に沿っていますぐ子どもが自由研究をスタートできるでしょうか。うーん、これでは、大人でもハードルが高いです。なぜなら、①の「自由研究のアイデアを思いつく」方法が書かれていないからです。自由研究の最も大事なステップであり、人によってはここに②や③の何倍もの時間を割くステップです。
アイデアを思いつくための方法について、もう少し詳しく検討する必要があります。
たとえば、
(1)図書館の子どもの自由研究のための書籍コーナーにいく
(2)ネットで検索する
(3)地域のイベントで自由研究につながりそうなものはないか、ママ友と情報交換
(4)新聞記事を子どもと一緒に見て、興味のありそうな分野を絞り込む
いろいろ方法がありますね。やはりアイデアは、歩き回ったり調べたりして多少情報を新しく取り入れながら探すのが一番です。日常生活を送っていて、ふとした瞬間にひらめくことももちろん大事ですが、夏休みは思いのほか短く、間に合わない可能性もあるのです。
自由研究の全体像の把握のしづらさは、この最初のステップ「アイデアを思いつく」をクリアしたあとでないと、その後の工程が全く見通せないところにあるかもしれません。
ゴールまでの手順を書き出す
さて、仮に夏休みの自由研究が「電気を使わなかった時代に、人は夏の暑い時どうすごしていたのかを調べる」に決まったとしましょう。この研究がどのように進むのか、②研究をする、③まとめる、それぞれのステップの詳細を書き出してみます。
②研究をする
(1)大まかな内容を把握する
・今の生活で暑い時にはどうしているかをリストアップする。
→おうちの人にきく、友達の家ではどうしているかきく。
・昔の生活で暑い時にはどうしているかをリストアップする。
→おじいちゃん、おばあちゃんに昔はどうしていたかきく。
(2)もっとこまかい点についてさらに調べる
・昔と今の家の構造の違い。
・おじいちゃんやおばあちゃんが生まれるよりもっと前の時代はどうだったか
・食べ物はどうしていたのか。冷蔵庫は。
→書籍、ネット、科学館などで調べる。
・実際自分も電気を使わず夏の暑さを1時間だけ体験してみる。
③結果をまとめる
(1)まとめ方の例をたくさん目にする(書籍、ネット、展示会)
(2)ラフスケッチを作る
(3)実際にまとめる
おおまかに書き出してみましたが、実に多くの工程がありますね。この「工程を書き出す」という手順を踏めば、ひと言で「自由研究」といってもこんなにも多くの手間ひまがかかるんだと、子どもにもわかるでしょう。計画的に取り組まなければならない理由をよく理解できるでしょう。
「おお、これは、夏休み最終日に追い込まれてやる量じゃないな」
そう子どもが思えたら、しめたものです。
夏休みの宿題のコツその1(自由研究の場合)
ゴールまでに必要な工程をこまかく書き出し、全体像を把握する。
さて、次回以降も、子どもが夏休みの宿題につまずく原因の、2番目「時間当たりの作業量の見積もりが甘い」、3番目「1カ月という長いスパンの時間感覚が不正確」についてご紹介していきます。
<お知らせ>
コラムでご紹介したような時間管理について、やさしいエッセー風にまとめた本もあります。時間を大切に使って夢を叶えるための方法が、ディズニープリンセスのお話になぞらえて紹介しています。
「ディズニープリンセス 夢を叶える時間術」(講談社)中島美鈴 著
https://www.amazon.co.jp/dp/4065147174/
<お知らせ>
「かなめクリニック」(北九州市)におけるオンライン診療は現在のところ、予約枠が全て埋まっており、新規受付はいたしますが、待っていただくことになりますのでご了承下さい。
<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

- 中島美鈴(なかしま・みすず)臨床心理士
- 1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。