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 体に不調を感じたり、病院で病気と診断されたりしたとき、インターネットで情報を調べる人は多いのではないでしょうか。ですが、その情報の信憑性(しんぴょうせい)は玉石混交なのが実情です。そのため検索サイトやSNSサービスなどを提供している企業は、不正確な情報が表示されないような取り組みを進めてきています。今回は、なぜ、そのような取り組みが必要なのか、そして取り組みに関する最近の話題を紹介します。

▼インターネットの情報に関する信憑性は玉石混交

▼人は誰しもバイアス(先入観、思い込み、偏見など)に陥りやすい

▼最近、インターネットの情報提供側が、不正確な情報への表示制限に取り組み始めた

「もしかしたら自分には…」無意識でも判断に偏り?

 「バイアス」という言葉を聞いたことはありますか?

 「傾向、偏向、先入観、データなどの偏り、思考や判断に特定の偏りをもたらす思い込み要因、得られる情報が偏っていることによる認識のゆがみ、といった意味で用いられる語」(※1)とされています。自分は「偏り」「認識のゆがみ」とは縁がないと思っている人も多いかもしれませんが、人は誰しもバイアスに陥りやすいことがわかっています。

 例えば、進行がんと診断され「有効な治療法(手術、抗がん剤、放射線治療)がない」と主治医から告げられた状況を想像してみてください。多くの人は「はい、そうですか」と納得することはないと思います。きっと、ほかにも何か有効な手段はないだろうかとインターネットなどで情報収集するのではないでしょうか。

 そして、グーグルを使って「がん 健康食品 奇跡 治療」のキーワードで検索した結果がこちらになります。

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 検索結果の上位には、健康食品の広告や奇跡の治療をうたう書籍の販売サイトのほか、民間療法に警鐘を鳴らすサイトもあります。

 ですが、病気を治したいという必死な思いで情報を探しているときは、冷静であれば怪しいかもと思えるような情報でも「もしかしたら自分には当てはまるかもしれない」と信じてしまうことがあるかもしれません。また、「奇跡の治療」を宣伝している情報ばかりに目が奪われ、警鐘を鳴らしている情報には目が向かないことも考えられます。このような情報の受け取り方や判断の仕方に偏りが生じてしまう状況を「バイアスに陥る」といいます。

 繰り返しになりますが、人であれば誰でもバイアスに陥る可能性があります。特にパニックになっていたりピンチな状況に追い込まれていたりすると余計にバイアスの影響を受けやすいことがわかっています。健康・医療とは関係ありませんが、「借金で首が回らない人ほど、怪しいもうけ話に引っかかりやすい」ということもバイアスの影響が指摘されています。

情報提供側の対策は?

 この連載では、正確な医療・健康情報の見極め方や向き合い方について解説してきました。ですが、人がもともと持っているバイアスの影響をゼロにすることはできません。

◎科学的思考をゆがめる心理効果[2017年11月2日]

https://www.asahi.com/articles/SDI201710316441.html

◎選択のパラドックス 選択肢が増えることは良いことか?[2018年1月18日]

https://www.asahi.com/articles/SDI201801151206.html

 そうなると、情報を提供する側に、怪しい不正確な情報を発信しないような努力をしてもらう必要が出てきます。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を提供しているフェイスブックは、7月2日に健康に関する情報について、「奇跡の治療法」などと誇張または誤解を招くような強調表現が使われている投稿を制限すると公表しました(※2)。また、健康に関連する商品やサービスの宣伝についても投稿を減らす取り組みも同時に進めていくとのことです。(補足:ただ、残念ながら、この取り組みは米国から始められて、日本での対策は今後のようです)

 日本でも、多くの人が利用しているインターネットのポータルサイトヤフージャパンが、国立がん研究センターと連携して「がん」をキーワードに検索したとき、当該センターが運営する「がん情報サービス」のサイトが最初に表示される仕組みを2018年初めにつくりました。

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 ただ、その当時、「がん」以外のキーワード、例えば「ステージ4」や「サプリメント」などを一緒に検索すると広告記事や個人のブログ記事などがヒットしてきました。個人のブログを全て否定するものではありませんが、科学的には不正確な情報もブログから発信されていることも事実です。例えば、個人の経験に基づく情報やクチコミやまた聞きの情報などは、どうしても先入観や偏りが入り込む余地が多いので情報としての信頼性は低く見積もる必要があります。さらに、誰もが気軽に情報を発信できるようになった弊害として、都市伝説や陰謀論などもブログで見かけることもあります。

 ですが、今回の連載記事を書くにあたって改めて「胃がん ステージ4」で検索してみると個人のブログ記事は上位にヒットしなくなっていました。

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 個人的には、健康や医療に関する情報は、どのようなキーワードで検索しても広告より上位に正確な情報がヒットするようにする、あるいは広告記事は「広告」であることをもっと目立つように区別しやすくするなど、さらなる改善に努めてもらえたらと思います。

 最後に、ちょっとだけ、よもやま話を。筆者自身、この連載の執筆以外にも仕事の関係で健康食品のことをインターネットで調べることがよくあります。そうすると、グーグルやヤフーは、筆者が健康食品に興味津々と思ったのか、健康食品の広告をよく表示してくれます。

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 読者の皆さんにも同じような経験はないでしょうか?世の中、便利すぎるのも問題なのかなと考える次第です。

[参考資料]

1)出典:実用日本語表現辞典

2)facebook Newsroom: Addressing Sensational Health Claims (July 2, 2019)

https://newsroom.fb.com/news/2019/07/addressing-sensational-health-claims/?mod=article_inline別ウインドウで開きます

(アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 島根大学・教授

島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、内閣府消費者委員会専門委員(特定保健用食品の審査)も務める。