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 前回、ピロリ菌を除菌すると、血小板が減る難病が治るという話をしました。感染症をコントロールすることで、感染症とは違う別の病気の治療につながるというケースです。今回も、感染症治療が別の免疫疾患を治すことにつながることをご紹介します。扁桃(へんとう)炎という身近な病気の治療が、腎臓の難病治療につながるという不思議なお話です。

 IgA(アイジーエー)腎症という指定難病があります。IgAとは、免疫グロブリン(抗体)の一種で、主に粘膜から分泌され、細菌やウイルスの感染を防ぐ役割があります。IgA腎症は、異常を起こしたIgAが腎臓の組織に張りついて沈着することで発症し、血尿や体のむくみといった症状を起こすこともあります。進行すれば腎不全に陥り、透析が必要になります。

 診断を確定する唯一の方法は、腎臓の組織を採取する「腎生検」をして、顕微鏡で観察することです。多くは無症状のあいだに尿検査でたんぱく尿や血尿が見つかることをきっかけに診断されます。

 治療法としては、減塩やたんぱく制限などの食事療法、運動や禁煙などの生活改善。そして、降圧薬の一種の「レニン・アンギオテンシン系阻害薬」やステロイド、免疫抑制剤などの薬物療法のほか、扁桃を摘出する手術が行われています。高血圧は腎機能を悪化させますし、降圧薬の中でも腎保護作用があるレニン・アンギオテンシン系阻害薬を使うのは合理的です。免疫が原因なので、ステロイドや免疫抑制剤を使うことは当然です。でも、扁桃摘出術はどういう意味があるのでしょう? 扁桃と腎臓になにか関係あるのでしょうか?

 扁桃は、のどにある免疫器官です。扁桃が腫れて痛くなり高熱が出る扁桃炎にかかったことのある方はたくさんいらっしゃるでしょう。そして、IgA腎症は、扁桃炎などの上気道感染後に悪化することが知られていました。考えられる仮説としては、扁桃に感染した細菌やウイルスと戦うために過剰に生産されたIgAが、最終的に腎臓に障害をもたらしている、というものです。

 日本を中心に、ステロイド投与と組み合わせて扁桃を摘出するとIgA腎症の患者さんの血尿やたんぱく尿が減り、腎不全への進行が抑制されたという報告が複数あります。日本では多くの施設が行っており、標準医療といっていいと思います。扁桃における慢性感染がIgAの生産を起こしているのであれば、扁桃摘出術に効果があるのは理論上も納得できます。しかし、効果がなかったという報告もあり、国際的にコンセンサスが得られているとは言えず、議論があるところです。

 いずれにせよ、感染症をコントロールすることが治療になるのは、ピロリ菌除菌療法が治療になる特発性血小板減少性紫斑病と似ています。他にも、まだ知られていないだけで、感染症を治すことが治療につながる免疫疾患があってもおかしくはありません。今は治療が難しい病気でも、意外な感染症を治すことで治るような発見があるかもしれません。

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。