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 体に入ってくる病原体を攻撃して排除する働きが免疫系です。しかし免疫系はときどき余計なことをしたり暴走したりします。スギの花粉が目や鼻に入ってきたところで、何か悪さするわけではないから、花粉ごときをそんなに攻撃しなくたっていいじゃないですか。しかし、病原体から体を守るために進化してきた免疫系は戦うようにできているのでしょう。

 暴走した免疫系を落ち着かせる治療の一つとして、ステロイドがあります。花粉症では、点眼や点鼻で使うことが多いのですが、症状が強いときは少量を内服で使うこともあります。ステロイドは副作用の多い薬で慎重に使わなければなりません。免疫を抑制するので感染症を悪化させることもあります。

 さて、ウイルスに感染したときに、ウイルスよりも免疫系のほうが害をなす場合もあります。たとえば、B型肝炎ウイルスそのものは細胞に障害を与えません。「B型肝炎キャリア」という状態では、ウイルスは体の中に存在し、感染力もあるけれども、とくに肝炎は起きていません。

 それではなぜB型肝炎は起こるのでしょうか。それは、免疫系がB型肝炎ウイルスに感染している肝細胞を攻撃するからです。感染していない肝細胞は自分の組織ですので免疫系から攻撃されませんが、ウイルスが感染するとその断片が細胞の表面に提示され、免疫系が異物と認識するようになります。

 これはウイルスを排除するための巧妙な仕組みです。大人になってからB型肝炎ウイルスに感染しても、多くの場合は一時的に肝炎を起こすだけでキャリアにはならず治ってしまうのは、免疫系がウイルスに感染した細胞を攻撃するおかげです。ただ、一部は肝炎が重症化してときには命を落とすこともあります。

 重症の急性肝不全(劇症肝炎)は、肝臓の機能が低下し、老廃物を処理しきれなくなって脳に悪影響を及ぼし、意識レベルが落ちる病気です。出血が止まりにくくなったり、おなかに水がたまったりするなど、さまざまな症状が出ます。B型肝炎だけではなく、他の肝炎ウイルスや自己免疫、薬剤アレルギーが原因になります。

 しかし、B型肝炎ウイルスに対する免疫が活発化しすぎる明確な理由は分かっていません。このコラムを書いているときに、ちょうど、「急性肝不全の患者、免疫抑える細胞が減少 血液調べ確認」という記事が出ました。免疫を抑える細胞が減少し、免疫が活性化しすぎることで急性肝不全が起きることが示唆されます。( https://www.asahi.com/articles/ASM7172G9M71ULBJ017.html

 この劇症肝炎の治療にステロイドを使うことがあります。それもステロイドパルス療法といって大量に使います。免疫を弱める作用のあるステロイドは、通常、感染症があるときには使いません。しかし、激烈な免疫反応が原因の劇症肝炎には有用なのです。急性期の炎症を何とかコントロールすれば、徐々に肝組織は回復しますので、それが狙いです。回復が見込めないときは、肝移植しか救命の手段がありません。大量のステロイドはもちろん副作用もありますが、ドナーを必要とする肝移植を避けるための苦肉の策ともいえるでしょう。

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。