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 感染症はがんの原因となります。B型肝炎ウイルスが肝細胞がんの原因になることは前回、ご紹介しました。国際がん研究機関(IARC)は発がん性のある物質や状況についてグループ分けをしていますが、そのうち「ヒトに対する発がん性がある」とするグループ1には、喫煙や放射線被ばくと並んで、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)などの感染が挙げられています。

 全世界では、1年に約200万人が感染症が原因のがんにかかっています。内訳はピロリ菌が約35%、HPVが約30%、B型肝炎ウイルスが約20%、C型肝炎ウイルスが約8%といったところです。ピロリ菌は胃がん、HPVは子宮頸(けい)がんや中咽頭(いんとう)部がん、B型肝炎やC型肝炎は肝がんの原因になります。

 がんに占める感染症起因の割合は、先進国では低く、発展途上国では多い傾向にあります。IARCのウェブサイトによれば、米国やオーストラリアでは4%未満、サハラ以南のアフリカでは33%という数字が挙げられていました。日本では2012年において13.5%だとする論文がありました。他の先進国と比較してまだまだ多いです。もともと日本ではピロリ菌やC型肝炎ウイルスの感染割合が高かったためでしょう。

 感染症が原因のがんは、感染を予防したり治療したりすることで防げます。ピロリ菌は上水道をはじめとした衛生状況の改善によって感染自体が減りましたし、ピロリ除菌療法もあります。ウイルス性肝炎も医療行為を介した感染が減り治療法も進歩しました。B型肝炎についてはワクチンもあります。胃がんや肝がんは、欧米諸国と比べるとまだ多いとはいえ、ずいぶんと減ってはきましたし、これからもさらに減っていくでしょう。以前、日本の胃がん死と肝がん死が減ったことをご紹介しました。

 ただ、HPV関連のがんについては、今後、他の先進諸国と比べて水をあけられるかもしれません。HPVには多くのタイプがあり、すべてのタイプのHPVの感染を予防するわけではありませんが、高リスクのいくつかのタイプのウイルスはHPVワクチンで予防できます。ワクチンが導入されてまだ十分に時間が経っていませんので子宮頸がんの明らかな減少はまだ観察されていませんが、ワクチン世代のHPV感染や前がん病変はすでに減少しています。また、子宮頸がん以外のHPVが原因のがんについても予防効果が期待できます。

 日本でもHPVワクチンは定期接種になっていますが、副作用に対する懸念から、接種を受けるようにうながす広報や個別通知が差し控えられています。その結果、諸外国と比べて接種割合が低く、子宮頸がんをはじめとしたHPV関連がんが日本だけ多いまま、ということになりかねません。このままでは子宮頸がんになった後で、「ワクチンを接種していれば発病を避けられたかもしれない」ことをはじめて知る人がたくさん出てくるでしょう。副作用がとても心配ならワクチン接種を避けてもいいのです。十分に情報を提供された上でワクチンを接種するかどうかを自己決定する機会が提供されるべきだと私は考えます。

 ※参考:Huang H et al., Estimation of Cancer Burden Attributable to Infection in Asia., J Epidemiol. 2015;25(10):626-38.

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。

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