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 今回は、上手に怒ることについて考えてみましょう。

 そもそも怒るのは良くないと考えている人にとっては、上手に怒ると言われてもピンとこないと思います。医療や介護の仕事をしている人のなかにも、患者さんや高齢者を相手に怒るなんていけないことだと考えている人が相当いると思います。

 怒ってはいけないと考える背景には、怒ったことで事態を悪化させてしまったり、人間関係に亀裂が入ったり、あるいは子どもの頃に大人にたしなめられたりした経験があるのかもしれません。

 怒りの表現の仕方を失敗したという経験は誰にでもあると思います。しかしここではまず、怒りの感情が生じることと、怒りを表出することは、分けて考えることが大切です。

 「ここで怒ってはいけないと」怒りの感情が生じることそのものを否定してしまうと、感情を無理に押し込めてしまったり、ため込んで爆発させてさらに悪循環を招いたりします。怒りは誰もがもっている感情のひとつですから、怒りが生じることを否定する必要はありません。

 ただし、表現を誤ると代償も大きいので、上手に怒る、つまり上手に怒りを表現するためにトレーニングするのです。

 

 皆さんが誰かから怒られたとき、嫌な思いが残るだけということもあれば、自分にとってプラスになったと捉えられることもあるのではないでしょうか。

 今回は三つのポイントを紹介します。

 一つ目は、怒るか否かの線引きが明確であることです。同じ出来事に対して怒ったり怒らなかったり、その日の機嫌によって変わってしまうと周囲の人にはその基準が分かりません。自分の基準から外れた出来事に対しては毎回怒ります。また、何かに怒って勢いで、普段は怒らないことだけどついでに怒るなどということをしてはいけません。上手に怒る人は、怒る基準が一貫しています。

 二つ目は、誰か相手がいるときは、具体的なリクエストを伝えることです。 医療や介護の現場でミスがあれば対策を講じなければなりません。しかし何か見落としのミスが発生したときに「どこに目をつけているんだ!」などと言われても改善しようがありませんよね。相手のために叱っていると言いながら、感情的に怒りをぶつけて相手を責めるような場面を見かけることもあります。

 怒ることは感情的になったり怒鳴り散らしたりすることではありません。これはやめてほしい、次からこうしてほしい、と相手に伝えるだけのことです。「怒る」ことは「叱る」あるいは「しつけ」「教育」「注意」などと共通する部分もあり、上手に怒れる人は、上手に叱れる人ともいえます。

 そして私が考える三つ目は、素直に感情を表現することです。こちらは「怒る」と「叱る」の違いの部分です。叱るのが相手のためであれば、怒りは自分のための感情表出です。子どもは素直に感情を表現しますよね。ところが大人になると場の空気を読んで堪えるとか、相手を見て雷を落とすとか、ある種の計算が働くようになります。場面に応じた対応は社会的に必要なスキルですが、嫌みを言ったり相手を威嚇したり、怒ることで見返りを求めるようなクレームなどは、上手な怒り方とは言えません。

 人を攻撃せず、相手によって対応を変えず、自分の感情を素直に表現することは、周囲の人を脅かさない上手な怒り方といえるでしょう。

 

 世の中には怒るのが上手な人がいます。芸能人や著名人でも、職場の同僚や上司など身近な人でも、思い浮かぶ人がいたら、どんなところが上手なのかを観察し、考えてみてください。まねすることで上達する場合もあるのではないでしょうか。

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。