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 怒りは、誰もがもっている自然な感情のひとつですが、上手に付き合っていかないと厄介なことがあります。

 アンガーマネジメントを学ぼうとする人は、怒りの感情の扱いに困って、怒らないようになりたいと考えている人も多いと思います。もちろん勢いで怒ってしまってから言い過ぎたと反省するぐらいなら、怒らずに過ごせるほうが良いと思います。

 しかし一方で、納得できないのに我慢してしまい、怒れないことに悩んでいる人もいます。怒らないようになりたいと思っていたのに、実は必要なときに怒れないことが自分を苦しめていたと気づく人もいます。アンガーマネジメントは、不要な怒りに振り回されず、必要なときには上手に怒ることができるようになるためのトレーニングです。

 

 このコラムでは、2016年9月から2週ごと80回にわたって、医療や介護にかかわる皆さんに向けてアンガーマネジメントを紹介してきました。そしてこれが最終回です。そこで今回は、これまで紹介してきた考え方やテクニックを実践することについて書いてみます。

 アンガーマネジメントには、たくさんテクニックがあります。使いやすいものもあれば、自分にはなじまないものもあると思います。それは人それぞれですから、自分にとって使いやすい方法を選べば良いのです。また、すぐにできるようにならなくても大丈夫です。カッとなった勢いで言い過ぎた、怒りを抑えられなかった、「アンガーマネジメントできなかった」と言われることがありますが、気にすることはありません。取り組んでいけば、次はもっとうまく対応できます。繰り返していくうちに気づいたら少し楽に対応できたという感覚をつかむことができます。

 怒りっぽいのは生まれ持っての性格で変えることはできないと諦めている人もいるかもしれません。しかしこれまでお伝えしてきたように、アンガーマネジメントは心理トレーニングです。練習すれば誰でも身につけることができます。

 

 怒りの引き金は、自分の価値観です。何かの出来事に怒りが生じたとき、視点を変えると自分が大事にしている価値観がみえてきます。同僚の言葉遣いにイラっとするのは、患者や利用者の尊厳を守りたいから、無責任な仕事ぶりに腹が立つのは、チームワークを大事にしたいから。安全、人権の尊重、同僚への配慮……、あなたが大事にしている価値観にふれたとしたら、そのときは怒れば良いのです。

 怒ることは、怒鳴り散らしたり、人を攻撃したりすることではありません。これは嫌だ、やめてほしい、次からはこうしてほしい、と自分の感情や要望を伝えることです。必要なときには上手に怒れるように練習するのです。

 私たちは、あの人が、あるいは出来事が自分を怒らせると考えがちです。でも、実際は違います。ミスばかりするスタッフや、同じことを何度も聞いてくる高齢者に自分は怒ったとしても、怒らないスタッフもいます。電車が遅れたり、パソコンが壊れたりしても同じです。

 人や出来事に自分の感情が支配されていたら、自分では変えることができません。でも、実際には自分の感情は自分で決めています。怒るのも怒らないのも自分次第と思えば、自己決定の選択肢が広がります。感情がかき乱されることが減ってきます。

 

 アンガーマネジメントは、知識として持っているだけでは役立ちません。ぜひ、活用してほしいのです。職場のコミュニケーションを円滑にするために、職場を活性化するために、そして何より医療や介護の現場で働く皆さんがいきいきと働き続けるために取り組んでほしいと思います。(=おわり)

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。