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 このコラムでは、ADHDの女性で、1児の母親であるリョウさんの子育て奮闘記を紹介しています。

 リョウさんの娘は来年から小学生。前回、リョウさんは娘の小学校の入学説明会に参加しましたが、そこであった「入学式までに準備する物」の説明がまったく頭に入らずに当惑していました。自分はダメな母親だと絶望感にひたっていたのでした。

 リョウさんはなぜ、入学準備にそこまで負担感をいだいたのでしょう?

 リョウさんはその理由を、夫のリアクションから知ることになりました。夫が、説明会で配られた小学校のしおりをみて、こう言ったのです。

 夫「なにこの、わかりにくいしおり。準備する物ってリストにして一覧で示せば早いのに。それに体操服は……何種類用意しなきゃいけないんだ? 指定にしてくれたらいいのにね」

 夫がいうには、しおりの構成が悪く、夫が見てもわかりにくいということでした。

 

写真・図版 

 しおりには、準備物についての記載が、あちこちのページにバラバラに書かれていました。

 体育のページには体操服のことが書かれていましたが、もっと後ろの「季節に応じて準備するもの」のページには長袖の体操服も必要であることや、水着の説明がありました。さらに体操服への記名方法については、「持ち物への記名方法」という別のページを見なければなりませんでした。

 体操服も、「動きやすく、華美でないもの」と説明されていましたが、メーカーの指定のないことはもちろんこと、色もデザインも自由だったのです。これでは、どんな体操服が正解かわかりません。

 リョウ「みんな、あの説明会だけでなんで理解できちゃうんだろう」

 リョウさんは、説明会に出た後も準備物がさっぱりわからず、パニックになっていたのは、自分に理解力がないからだろうと考えていました。しかし、夫の「わかりにくいしおり」という指摘を聞いて、「つまずいたのは自分だけのせいじゃないのかも!」と思えました。

 それでも、これまで数多くの新一年生の親たちが、このわかりにくいしおりでも、なんとか読みこなして準備をしてきたんだなあと思うと、驚きでした。

 

 気づくと夫は、メモ用紙にこんなリストを作っていました。

 

〈準備するもの〉

 ・縦○センチ×横○センチの手提げ(ネットで検索)

 ・縦△センチ×横△センチの巾着袋(ネットで検索)

 ・30センチの紐(ひも)のついた洗濯バサミ(「紐」がよくわからないので、同じ小学校に進学予定の幼稚園ママに確認)

 ・体操服(半袖、半ズボン、長袖、長ズボン→同じ小学校の親に確認)

〈Amazonで買うもの〉

 ・16色のクレヨン

 ・のり(水のり)

 ・のり(指でつけるのり)

 ・下敷き

 ・筆箱(キャラクターものではないもの)

 ・2B鉛筆5本

 ・消しゴム

 

 夫「要はこういうことだよね。俺がしおり作った方がわかりやすいんじゃない?」

 リョウさんの夫、いつになく得意げです。

 

写真・図版 

 リョウさんも一目でこのメモが気に入りました。用意する物と、手段が簡潔にまとまっています。リョウさんの娘も、一緒にのぞき込みます。最近、髪飾りでも服でも、「ピンクしか嫌だ」「自分で選ぶ」と主張する娘ですから、筆箱や鉛筆は選択肢の多いネットでゆっくり選ぶとよいかもしれません。

 リョウ「ありがとう。落ち着いた。これなら私にもできそうな気がする。よくこんなリストすぐに作れるね」

 夫「俺、基本的に仕事の資料とか全然頭に入らなくて。いつもこうやってんの。リストにしないと、結局読んだ後に何が書いてあったかよくわかんなくなるの」

 リョウ「私もそれある! なるほどーって思いながら長い文章読むけど、最初の方に何書いてあったか、どんどんわからなくなって、結局投げ出しちゃうんだよね。働いてた時も、資料をいっぱい渡されて、全部読むんだけど、書いてあったことはぜんぜん頭にはいってないの」

 今回はリョウさんの夫のナイスなアイデアで、救われたリョウさんです。

 

 実は、今回のような複雑で長い文章、複数の文書から必要な情報を読み取り、次のアクションを起こすという作業は、ADHDの特性をもつ方にとって苦手な作業です。脳の中で、一時的にせよ、長い文章や複数の文書を覚えておくこと、覚えていた情報を取り出して優先順位をつけたり、計画を立てたりして実践していくことが不得意だからです。

 要は、一時的な記憶力が弱くそれに基づいた高度な作業に支障が出るというわけです。

 

 対策としては、この「一時的な記憶力の弱さ」を補うことが挙げられます。リョウさんの夫が作成した「リスト」のように、覚えておくべきポイントを紙に書き出すのは、最も手軽にできるおすすめの方法です。

 他にも、パソコンでお仕事される方で、複数の文書を参照しながら作業をしなければならないときには、なるべく画面の広いパソコンで複数の文書を一度に視野に入れることができるようにします。一つ文書を開いて内容を記憶しながら、また別の文書を開いて編集するといった一連の流れの中で、記憶がこぼれ落ちるのを防ぐためです。

 パソコンの画面を2つに増やしたことで、仕事の効率が上がったという声も聞きます。

 アナログな仕事の場合にも同様に、必要な資料は全て手元に広げて見渡せるようにしておくと、ベストです。そのためにも作業デスクは広いものをお勧めしています。

 

 ちなみに、仕事や作業を共にするチームのメンバーにADHDの特性をもつ人がいるときは、これを応用して、メールの添付ファイルで大量の資料を「事前に送る」とか「個別で読んでおく」というステップは可能な限りやめて、その場に集まって資料の説明をしながら読み込み、その場で意見を出し合い、決定するといった「その場で」方式に切り替えるとよいでしょう。

 ADHDの人は記憶力の弱さを自覚すると、こうした防止策を自分で講じられるようになります。「1週間後までに、この書類に住所と氏名を書いて、貯金通帳のコピーを同封して郵送する」という課題に対しても、1週間先延ばしにするのではなく、きっと即座にとりかかるでしょう。なぜなら、「あと1週間あるから、あとでしよう」と後回しにすると忘れるリスク、思い出す手間、その課題に飽きてしまうリスクがあるからです。

 

 ちょっと話がそれましたね。

 リョウさんの入学準備でのつまずきのように、複数の事項についてあちこちのページでバラバラに示されると、情報が多すぎて混乱することはADHDの方でなくてもよく起こることです。リョウさんの夫のような自分なりの情報整理メソッドを確立しておけば、ずいぶん助かりますね。

 さて、次回はリョウさんがこの入学準備に向けて行動を開始します。

 

生きるのがつらい女性のADHD
仕事も恋愛もつまずいてばかり……。
ADHDに悩む女性「リョウさん」のこれまでの歩み

<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。