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 医療や介護に携わる人たちに向けて、怒りの感情とのつきあい方を、3年余りにわたりコラムでつづってきた、看護師の田辺有理子さん。「アンガーマネジメントというと、怒ってはいけないと思う人も多いのですが、怒ってもいいんです」といいます。そのこころは?

――「カッとなったらその場を離れる」「自分を落ち着かせる魔法の呪文」「気持ちを切り替えるリフレッシュリスト」「怒りに点数をつける」……。80回にわたる連載の中で、すぐに試せる数々のテクニックを紹介いただきました。

 「魔法の呪文」は、イラッとしたときの決めゼリフを用意しておくというもので、研修会などでも人気のあるテクニックです。実際に使っている人もけっこういらっしゃると思います。そんなに目新しいことではないけれど、ああ、こういうことってあるある、と感じながら「ちょっと試してみようかな」と思ってもらえたらいいなと。そう思いながら、執筆してきました。

 ▼カッとなったらひとまずその場を離れよう[2018/10/3](https://www.asahi.com/articles/SDI201710235921.html

 ▼嫌な感情をリセットする、リフレッシュリストをつくろう[2019/5/28](https://www.asahi.com/articles/SDI201905231996.html

 ▼怒りを和らげる魔法の呪文[2017/3/21](http://www.asahi.com/articles/SDI201703191597.html

 

――田辺さんはどうして、アンガーマネジメントに取り組むようになったのでしょう?

 忙しい医療現場のなかで、医療スタッフや患者さんとの間でうまくコミュニケーションがとれなかったり、つい口調がきつくなって周囲がモヤモヤしてしまったりする場面を見てきました。医療安全という視点からも、何か良い方法がないか模索してきていました。

 そんな時、2011年に東日本大震災を岩手県で経験して。怒りはわくけれど解決できないとか、思うように身動きが取れないといった不条理や悔しい思いも経験して、やり場のない怒りへ対処するにはどうしたらよいだろう、などといろいろな思いが重なっていたんです。ちょうどそのころ、日本アンガーマネジメント協会が立ちあがって、講座を受けようと申し込んだのがはじまりです。

 

――コラムや書籍の執筆の他にも、日本全国で講演活動を続けていらっしゃいますね。

 看護や介護、福祉といった人を援助する職業の人がアンガーマネジメントをちょっと知っていれば、ラクになるだろうな、もっといきいきと働けるだろうなと感じています。それを伝えたくて、活動を続けています。

 ただ、実は、こうした専門職向けの研修会などの対象にはならない人たち、家族を介護している人の中には、地域の中で誰にも助けをもとめられないで、切羽詰まっている人もいる。自分は弱音を吐けないし、まわりの人には相談できない、研修などの情報もない……。そういう方たち、介護しているご家族や、地域の中でいろいろな人に関わっている民生委員さんたちにも、ぜひアンガーマネジメントを活用してもらいたいですね。

 ▼介護する人が自分自身を保つために[2018/4/3](https://www.asahi.com/articles/SDI201804016087.html

 

――コラムを読んで、アンガーマネジメントの手法を知識としては理解していて、頭では怒ってはいけないとわかっていても、それでも怒ってしまうということもあります。どうしたらいいのでしょう。

 それって、悪い事じゃない、と思っています。怒るということは、相手への期待があるからです。何か伝えたいことがあったりとか、変えて欲しいことがあったり、次からこうして欲しい、これはやめて欲しいと、何かその人に変わって欲しいものがあるんだろうなと思うのです。

 中には「しょせん認知症の人なのよ」「認知症の人にまともに怒ってどうするの?」という考え方の人もいます。そのような感覚だと、確かに腹はたたないかもしれません。でも、それって対等じゃないというか、人として見ていないというか、ちょっと残念だなと思う事もあります。

 ただ、怒り方として「ああ失敗してしまった……」ということはあるとは思います。ちっぽけなことにすごく大きく怒ってしまっていろんなことを失う、そういうことがないように、普段から練習していけるといいですね。

――認知症などで、こちらの意思が伝わりにくい相手へのイライラは、どう対処したらよいですか。

 認知機能の問題で、症状として歩き回ってしまったり、同じことを繰り返してしまったりする場合、その行動を抑えることは難しいです。でも、じゃあどうしたらよいだろうと考えてみると、「行動を制止すること」が目指すべきゴールではないかもしれない。自分はその人について歩いてみるから、こっちの仕事をお願いと頼めるようなチームワークをつくっておくとか、気持ちの余裕を持っておくとか、思考をちょっと変えてみるというのも、アンガーマネジメントのひとつです。

 ▼老いた親の言動にカッときたときの気分転換のコツ[2018/5/18](https://www.asahi.com/articles/SDI201804287807.html

 

 アンガーマネジメントの考え方を練習していくと、自分の感情や行動を、自分で主体的に選択していくことが出来るようになっていくと思います。「させられている感じ」よりも、自分で選んで決めているんだという感覚を持てるほうが、柔軟に考えられるし、アイデアも広がると思います。

 例えば介護なら、「なんで自分ばっかり大変な思いをしなきゃいけないんだ」と思うよりも、「ここでは助けを求めよう、ここはサービスを活用しよう」などと、主体的に考えて行くこともできますね。

 

――コラムでは「怒りの引き金は自分の価値観である」ということを繰り返し伝えてきました。

 自分の価値観、自分がどういうことを大事にしているかは、気づかないことが多いものです。でもそれに気づけると、この価値観は手放せるなとか、まあこのくらいならいいかなという許容範囲を広げることもできます。

 ▼怒りの核心に迫る[2017/5/30](https://www.asahi.com/articles/SDI201705296511.html

 

 私も、仕事で完璧にできるまでだめだと思ってしまって、次の仕事にすすめなくて、どんどんつみあがっていっちゃって、要領が悪いと言われ、残業が多いと注意を受ける……という悪循環を経験したことがあります。

 そんな時、完璧でなくてもいいからぱっと出して次に進んだり、少しくらい間違えてもいいじゃないと思っていたりするほうが、仕事が進んでいくこともあります。最近は、「終わってないけれど、寝てしまおう」など仕事を中断することもできるようになってきました。前に進めないときに、「意外とそれって、自分にとって不毛なんだな」と気づけて、ここまででいいかと思えるとラクになりますよね。

 

――完璧にできなくてもいいんですね。

 人の価値観に、正解・不正解はありません。ただ、そこにこだわりすぎることで、自分が辛くなったり人に何かを強いたりして、自分や他人を苦しめるようだったら、そのこだわりは手放してもいいものかもしれませんね。

 思考って、ちょっとしたトレーニングで変わっていくものです。でも、「このポイントをおさえておけばすぐに完璧にできる」、というものはありません。折に触れて考えてみることで、いつの間にか考え方を整理するのが以前よりも少しラクにできる、と気づくかもしれませんよ。

 ▼アンガーマネジメント、完璧にできなくてもいいじゃない[2018/9/4](https://www.asahi.com/articles/SDI201809019504.html

 

<たなべ・ゆりこ>

 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士。横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)などがある。

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(聞き手・鈴木彩子)