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 外来をしていると、母子健康手帳の予防接種欄がほとんど空欄という子に出会うことがあります。保護者の方に聞くと、「ワクチンは危ないと、本を読んで勉強しました」というのです。

 予防接種については、子どもが生まれて初めて調べてみようという方が多いでしょう。ワクチンについて少し検索すると、正確だけれど難しい本や、読みやすいけれど著者の個人的な意見が多い医学的に正しくない本がヒットします。また、SNS上などにも誤った情報が蔓延しています。親御さんが一生懸命勉強しても、その方向性が偏っていると悲劇です。ワクチンは危険で必要のないものという誤った意見を補強するものばかり集まるからです。

 ワクチンや予防接種について、なるべく押し付けず、優しい語り口でわかりやすく伝えたいと思い、小児科専門医の宮原篤先生との共著で新しい本を書きました。「小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK」という本です。ワクチンについて不安があるという親御さんには、ぜひ手にとっていただけたらなと思います。今回は、本の中から、ワクチンについて親御さんに知っておいてほしいことを紹介します。

ワクチンの拒否、WHOも問題視

 ワクチンに対する誤解が広まるとどうなるでしょう。

 現在、麻疹(はしか)は、世界的に感染が拡大して問題になっている感染症です。背景に、ワクチンに懐疑的な人が増えていることがあると考えられています。WHOは今年、「世界の健康に対する10の脅威」の中に、「ワクチン忌避」(ワクチンを拒否したりためらったりすること)を挙げました。

 麻疹は、現代にできる最良の治療をしたとしても1千人に1・5人死亡することのある怖い感染症です。麻疹に感染したあとにも免疫力が低下したり、数年経ってから亜急性硬化性全脳炎(SSPE)を起こしたりします。ワクチンで防ぐことが非常に重要なのです。

 本の中で宮原先生が書いていますが、2017年から18年にかけて、麻疹の患者はウクライナでは10倍以上、マダガスカルで27倍、フランスでは4.6倍に増えました。今年はすでに昨年を上回るペースの報告があります。今年の8月にはギリシャやイギリスなどヨーロッパの4カ国が、WHOが認定する麻疹の「排除状態」から除外され、流行の兆しが見えています。

 患者が増えているのは、経済的に子どもに予防接種を行えない国だけではありません。法律で受けることが定められた定期接種になっているのに、誤った情報を得て、ワクチンに懐疑的な人が増えていることが原因の一つです。

 定期接種で防げる病気で苦しむ人が増え、そのことを通して感染症の怖さを再認識するのは悲しいことです。感染力が大変強い麻疹がまっさきに問題になっていますが、この先、他の感染症も増加するかもしれません。

任意接種は受けなくていい?

 また、誤解している方がいるのですが、定期接種と任意接種は重要性で分かれているのではありません。予防接種法という、あくまで法律による分類で、ともに重要なワクチンです。

 例えばおたふく風邪ワクチンは、多くの国で公的制度によって無料で受けられるものです。WHOは「どの国に住んでいても、どんな経済状況でも予防接種を受けるべき」と言っていますが、日本では任意接種なので接種率は数十〜40%しかありません。予防接種は任意のものも含めすべて受けることをお薦めします。

 他にも誤解やデマが、食料品や薬よりも多いのがワクチンの特徴です。先日、保護者の方に「添加物が嫌」と言われたのですが、添加してあるものがなにか、そして量はどのくらいなのかということが大事です。本書に詳しく書きましたが、ワクチンに入っているものはすべて安全性が確認されているし、製造過程で使ったけれど接種の際には精製されて取り除かれているものも多いのです。

拡大する写真・図版イラスト・森戸やすみ

 「現在の日本ではなくなった感染症だからワクチンはいらない」という話も聞きます。しかし、前述のように、排除状態に一度なった麻疹の報告が日本でも相次いでいますし、インバウンドする人や海外渡航者が持ち込むこともあります。しばらく落ち着いていた百日ぜきも増えており、抗体を持っていない人が増えると国全体のリスクが上がります。

 最後に、ワクチンは推進派と反対派の医者に分かれているのではありません。普通の医者は、感染症について知り、治療に尽力し、予防法がある場合はそれを勧めます。そういう普通の医者と、「ワクチン/予防接種はいらない」などと言う医者は半々にいるわけではないし、拮抗してもいません。99%以上が普通の医者です。予防接種について不安を感じていたり、疑問があったりする方はぜひ目次から見ていただき、答えがありそうだったら読んでいただきたいと思います。

<アピタル:小児科医ママの大丈夫!子育て>

http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/(アピタル・森戸やすみ)

アピタル・森戸やすみ

アピタル・森戸やすみ(もりと・やすみ) 小児科医

小児科専門医。1971年東京生まれ。1996年私立大学医学部卒。NICU勤務などを経て、現在はさくらが丘小児科クリニックに勤務。2人の女の子の母。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(内外出版)、共著に『赤ちゃんのしぐさ』(洋泉社)などがある。医療と育児をつなぐ活動をしている。