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 季節も移り変わり、少しずつ涼しくなってきました。前回のコラムでお伝えした、私の排尿管理チャレンジが長引いてしまい、ようやく退院できたのが8月末です。その影響で、このコラムもしばらくお休みをさせて頂いておりました。今回は、何とか終わったこの排尿管理が、どんな結末を迎えたのか、ご報告したいと思います。

 小児がんの影響で排尿機能に障害がある私は、長年、尿道を介して膀胱(ぼうこう)にバルーンカテーテルというものを入れていました。ところが、尿道の粘膜がびらんしてしまい、このまま放置するわけにはいかず、私なりの新たな排尿管理を獲得するべく入院をしたーー。ここまでが、前回ご紹介した経緯です。

 入院して、まずは排泄(はいせつ)機能を調べるための基礎検査を行うことになりました。膀胱内圧測定(シストメトリー、以下、シスト)という検査で、膀胱に生理食塩水等を注入しながら行います。調べる項目は、膀胱内圧や膀胱知覚、膀胱容量など。バルーンカテーテルに頼っていた私の膀胱が、いま現在、どんな「実力」があるのかを確認する検査と言えるでしょう。

 十数年もの間カテーテルを留置していると、膀胱が伸びる機会を失って縮んでしまい、あまり尿をためられなくなっていることが推測されていました。また私の膀胱にはもともと、尿が「漏れない」という問題点もありました。私のように尿意を感じられない人の場合、膀胱のキャパシティーを超える尿が生成されたら、あふれた尿は漏れてしまうもの、と思うかも知れません。ところが私の場合、失禁はせず、逆流してしまうのです。さらには、尿量が安定せず、増減の幅が広いことも問題のひとつでした。過去の検査で知り得たこうした状況が、どう変化しているのか・・・。

新しい感覚「尿意もどき」

 実は検査結果は、良い意味で予想を裏切ってくれました。そもそも。尿があふれて漏れるようになっていたのです。これが以前と変わらず漏れないとなれば、バルーンカテーテルを外す計画も立ち消えになりかねず、大きな一歩です。

 加えて、膀胱のキャパを確認していくなかで、新しい感覚を得ることができました。それが、「尿意もどき」もとい「代償尿意」です。これは麻痺の程度などにもよりますが、自律神経の過反射として尿意に替わる諸症状が発現することがあります。たとえば、頭痛や発汗、鳥肌現象(立毛筋収縮による)、徐脈などなど。症状には個人差があるけれど、こうした反射現象を利用して排泄のタイミングを図る目安にする手法があります。尿量が不安定なことに変わりはなかったけれど、尿意もどきを目安に導尿をすれば、漏れる前に対処できます。

 長年の懸念も杞憂(きゆう)に終わり、カテーテルからの離脱と自己導尿への道筋が見えてきました。もう一つの課題として、がん治療の中でもろくなっている仙骨に負荷のかからない導尿姿勢の獲得というものもありました。しかしこれも、整形外科の主治医やPT・OTの知恵と私の経験則を持ち寄ることで、意外とすんなり最適解にたどり着くことができました。

寝不足・褥瘡のダブルパンチ……

 しかしながら、実際に自己導尿で過ごしてみると、新たな問題にぶつかりました。眠ってしまうと「尿意もどき」を感じることができないのです。時間を決めて起きてはいたのですが、日頃から眠りの深い私にとって、夜中に目覚ましをかけて2、3回起きなければならないのは、とても苦痛でした。しかも、尿量が日中に比べて夜間の方が多いことに気付きました。設定した間隔では間に合わずに、漏れていることも度々あり、仙骨部の褥瘡(じょくそう)の古傷が悪化しかけるというダブルパンチです。

 これは、まずい・・・。寝不足でぼーっとする中、「脱・留置」を掲げて封印したはずのバルーンカテーテルの快適さが頭をよぎります。実は、そこで考え始めたのが、「ナイトバルーン」というものでした。バルーンカテーテルを常時留置するのではなく、夜間だけ留置する方法です。

 尿道がびらんした要因のひとつは、カテーテルによる物理的な圧迫でした。歩ける人に比べて座っている時間が長いため、一方向に圧が偏り負荷を助長していたのです。けれども、夜間であれば座位の圧がかかることはありません。時間も短いので、びらんさえ治ってしまえば、夜間の留置くらいは十分に行えます。そうすることで、夜中もぐっすり眠れる上に、寝不足や褥瘡リスクからも開放されて一石二鳥です。すこし応用して、旅行や講演、出張など、日中の導尿が大変なときにスポット的に取り入れることも可能になるかも知れません。

選択肢が増え、たどりついた答え

 紆余曲折を経て、日中は自己導尿をして、夜間はナイトバルーンを入れるという方法に落ち着きました。びらんも治って、新たな排尿管理の獲得という当初の目的も達成され、日常に戻ったのが9月のことです。

 

 今回の件では、一応、終着点にたどり着けたものの、その間には本当にいろいろなことがありました。一時は、どうなることかと憂いたりした時もありました。トイレ事情によって生活が制限されることを、内心、不安に思うこともありました。けれども、バルーン留置一択だったところに、自己導尿やナイトバルーンという選択肢が増えたことによって、無事に払拭(ふっしょく)されたのです。何事においても、あらゆる選択肢を持っておくことは大切だなあと、しみじみ思い入ります。まあ、終わりよければすべてよし、ということで一件落着、です。

<アピタル:彩夏の〝みんなに笑顔を〟>

http://www.asahi.com/apital/column/ayaka/(アピタル・樋口彩夏)

アピタル・樋口彩夏

アピタル・樋口彩夏(ひぐち・あやか)

1989年、東京生まれ。中学2年の時、骨盤にユーイング肉腫(小児がん)を発症。抗がん剤、重粒子線などの治療を経て、車いすでの生活に。「いつ、誰が、どんな病気や障害をもっても、笑顔で暮らせる日本にしたい!」を目標に日々、奮闘中。当事者の視点から建設的に伝えることをモットーに執筆・講演も行っている。

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