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 あおり運転やら高齢者による交通事故やらの報道が世間をにぎわせていますが、日本の交通事故死亡者数はここ20年間ほどずっと減少しています。もちろん、交通事故でいまだ年間に3千人以上が亡くなっており、けがをした人はそれ以上にいるわけですので、まだまだ対策は必要です。ただ、少しずつではあるものの、改善していることは喜んでもよいのではないでしょうか。

 医学についても同じことが言えます。世界から完全に撲滅できた感染症は天然痘だけ。その他の病気については対策を継続しなければなりませんが、それでも状況は改善しています。天然痘のように完全にゼロにすることは無理にしても、かなりの減少を期待できる病気もいくつかあります。世界規模で予防可能な病気としてC型肝炎と子宮頸(けい)がんが挙げられます。どちらも今年になって予測モデル(シミュレーション)の研究が、イギリスやオーストラリアの研究グループから発表されました。

 世界で約7100万人の人がC型肝炎ウイルスに感染しており、2015年には47万5千人がC型肝炎のために亡くなりました。C型肝炎ウイルスは主に血液を介して感染します。輸血や血液製剤は、かつてはウイルスに汚染されていたこともありました。いまでは安全性は確保されつつありますが、違法薬物の使用者は注射針の使いまわしで感染のリスクが高くなります。違法な薬物を取り締まる だけではなく、注射針の危険性などを啓発しつつ依存症の治療につなげることが、肝炎ウイルスやHIVの感染予防にもなります。

 また、いったん感染しても「直接作用型抗ウイルス剤」という治療効果の高い治療法が今はあります(薬価も高いですが)。感染しても病気が進むまでは無症状ですので、スクリーニング検査で感染している人を発見し、治療につなげることも有効な対策です。こうした、血液製剤の安全性の確保、薬物使用者の感染対策、直接作用型抗ウイルス剤の投与、スクリーニング検査といった包括的な対策を行うことで、2032年までにはWHOの目標とする感染の80%の減少、死亡の65%の減少が達成できると推測されました。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30704789別ウインドウで開きます

 子宮頸がんも世界的な対策が必要とされている疾患です。子宮頸がん対策の両輪はHPVワクチンと子宮頸がん検診です。子宮頸がんのほとんどがHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染が原因ですので、HPV感染を防げば子宮頸がんも防げます。

 もしさらなる対策をしなければ、今後、子宮頸がんと診断される人は世界で1年間あたり60万~130万人、2020年~2069年の50年間で合計約4400万人だと推測されています。研究では、2020年までのHPVワクチン接種率が80~100%になれば、このうち670~770万人の子宮頸がん発症を防げると推測されました。さらに、35歳時と45歳時の子宮頸がん検診受診率が70%になれば、1250万~1340万人の子宮頸がん発症を防げます。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30795950別ウインドウで開きます

 これらの研究はいずれもシミュレーションによる予測ですが、現在までに開発された医療技術を用いており、努力次第で達成可能です。膵臓(すいぞう)がんなど、現在の医療では予防が難しい病気もたくさんありますが、予防可能な病気については対策を続けることで少しずつですが状況は良くなっていくでしょう。

《酒井健司さんの連載が本になりました》

これまでの連載から80回分を収録「医心電信―よりよい医師患者関係のために」(医学と看護社、2138円)。https://goo.gl/WkBx2i別ウインドウで開きます

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/

(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。