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 2019年9月、グーグル社は、「証明されていない、あるいは、実験的な医療技術」の広告を禁止する方針を発表しました。「ニセ医学」は日本だけではなく、海外にもあります。たとえば、米国において、「幹細胞クリニック」が加齢黄斑変性という視力が低下した患者さんに対して幹細胞治療を行い、失明させた事例があります。幹細胞治療そのものは効果が期待できる有望な治療法で、公的な機関が実用化に向けて臨床試験を行っていますが、それとは別に高額な対価を取って証明されていない治療が行われているのです。

 ほかのSNS大手も、医療のフェイク情報の対策に苦慮しているようです。グーグル検索は対策のおかげかだいぶマシになってきましたが、ユーチューブで「がん治療」と検索すると、上位のかなりの割合が「がんは放置したほうがいい」「抗がん剤は効かない」「がんは食事だけで治せる」など、信頼のできない動画です。

 動画が再生されるとアップロードした人に広告収入が入ります。内容が医学的に正確かどうかよりも、より人目を引き、クリックされるような動画を投稿するインセンティブが働きます。動画の内容を信じて健康や命を失ってもアップロードした人は責任を取ってくれません。言論の自由との兼ね合いがありますので一律に規制するべきではないとは思いますが、たとえば、医療に関する動画には広告収入が発生しないような仕組みがあってもよいのではないでしょうか。

 現代医学を否定する人たちは、「がんで多くの人が亡くなっている。現代医学は病気を治せていないではないか」などと主張します。確かに、現代医学で確実に治せるわけではない病気はたくさんありますが、だからといって他に治せる優れた治療法があるわけではありません。「いや、私の方法なら治せるのだ」と主張したいなら、ユーチューブで小銭を稼ぐのではなく学会や医学雑誌で発表するべきです。

 そもそも、現代医学で治せない病気が多いのは、治せる病気を治してしまった結果なのです。戦前は感染症が、その次は脳血管疾患が死因トップでした。抗菌薬や降圧薬のおかげでこれらの病気で死ぬ人が減り、平均寿命は延びました。がんは高齢者に多い病気です。他の病気で人が死ななくなった結果、がんによる死亡者が多くなったのです。

 がんについても胃がんや肝臓がんは減りつつありますし、将来は子宮頸がんも減るでしょう。しかし、人はいつか死ぬのです。がんを克服していったとしても、別の病気で人は死にます。そういう当たり前のことを承知していれば、医療のフェイク情報にだまされにくくなるのではないでしょうか。

※参考:https://support.google.com/google-ads/answer/9475042別ウインドウで開きます

《酒井健司さんの連載が本になりました》

これまでの連載から80回分を収録「医心電信―よりよい医師患者関係のために」(医学と看護社、2138円)。https://goo.gl/WkBx2i別ウインドウで開きます

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。