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 10月に入っても東京では最高気温が30度前後のお天気になっています。国連の気候行動サミットでのグレタ・トゥンベリさんの演説が反響を呼ぶ中、秋とは思えない気温も温暖化の影響かと空を見上げる毎日です。気候変動の問題は食事や食物生産とも関係しています。英医学誌「ランセット」に今年1月、地球の健康と人間の健康、双方を保つ食べ方を提案する論文が発表されました。どんな食事法なのか、ご紹介したいと思います。

 論文をまとめたのは「EATランセット委員会」。持続可能な食料生産と食生活への変革を訴える北欧のEAT財団とランセットのプロジェクトで、農業、環境、ヒトの健康などを専門とする世界16カ国の研究者37人が参加しています。内容については特設サイトも公開されています。(※1)

 世界で8億2千万人以上が飢えている一方、成人20億人以上が肥満や食事に関連する生活習慣病で苦しんでいて、2050年にはさらに全世界の人口は100億人に近づくと予測されています。これだけ多くの人が十分に食べられて健康に暮らし、かつ、地球の環境持続性も確保するための方策があるのか。これが論文の命題です。そして彼らが出した結論は、現在の食生活と食料生産に大きな変革を求めるものでした。

 一口に言うと、世界的に見て、野菜、果物、ナッツ、豆類の摂取を倍増し、畜肉(牛、豚、羊肉など)と砂糖の摂取を半減させるよう提案しています。食生活を変えることで、年間に1100万人の死亡を防ぐことができるといいます。

 環境面では、動物性食品、特に牛、豚などの畜肉生産は、他の食品群に比べて温室効果ガスの発生、土地利用などで環境負荷が高く、穀物を飼料にしている場合さらにその影響が大きいとされています。このため、畜肉の消費を減らすよう求めているのです。

 具体的にどんな食品をどれだけ食べられるのか。1日に2500キロカロリー摂取できる食品の組み合わせ一覧が出ていました。

写真・図版

 卵は4日に1個ぐらい。ハンバーガーや豚のショウガ焼きは週に1度のごちそうか。牛乳は毎日コップ1杯飲めそう。野菜と果物はたっぷりね、と眺めていましたが、よく考えると、意外と日本人には手の届く数値なのかも・・・?と思えてきたのです。というのは、たんぱく源となる食品のうち、ナッツを除き、主菜の材料になる食品を足し合わせると、159gになります。1日3食として、3で割ると53gが1食分。先月取り上げた、栄養バランスのよい食事「スマートミール」での「ちゃんと」の主菜の基準は1食60~120gですので、かなり近い。野菜300g、イモ50gの数値も、スマートミールの基準では野菜、キノコ、イモ、海藻を使う副菜は1食140g以上ですので、クリアできます。

 実際に日本人が食べている量と比べてみます。2017年の国民健康・栄養調査による食品群別摂取量の平均値はこのようになっています。

写真・図版

 この数値は調理後の重さです。穀類なら、米、小麦粉でなくご飯、パンなどの重さ。424gが全てご飯だとすると、193gの米にあたります。一覧の232gよりやや少ない。さらに食品群の分類も異なるので単純に比較はできないのですが、ざっくり見ると、他の食品群は、畜肉、魚介類、卵が提案より上回り、ナッツ、果物、牛乳・乳製品が下回る。イモ、豆、野菜、鶏肉は同程度です。

 食生活は地域差も大きく、伝統や文化習慣とも大きく関わっています。委員会も「この通りに食事をしなくてはならないわけではない」として、地域や人々の事情に合わせて運用するよう言っています。また食べ方の改革は、まず先進国の過剰な消費を減らすことから取り組むようにとも。

 論文では、実現に向けた五つの戦略も示しています。飼料用穀物の大量生産から、生物多様性を豊かにする多様な作物生産への農業再編。肥料や水の使用といった生産方法の改善、土地と海のガバナンスの強化などの内容で、食品廃棄を少なくとも半減させることも求めています。

 この点で、日本は大きな改善の余地があります。日本でまだ食べられるのに廃棄されている、いわゆる「食品ロス」は643万トン。

 飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食糧援助量の1.7倍にあたる量です。また、食料自給率がカロリーベースで37%と、海外からの輸入に頼って食べている構造も環境に負荷を与えています。特に、飼料自給率は25%の低さです。穀物飼料を与えて家畜を育てること自体、環境影響が高いとされますが、飼料を海外から輸入しているとさらに負荷は高まります。なお、日本に根付いている大豆製品を食べる習慣は、たんぱく質源として今回の提案の方向とそぐうものですが、食品用大豆は輸入が大半で、自給率は24%しかありません。

 人と地球が健康になるためには、何を食べるかと共に、どのように作られた食べ物なのか、食べ物の来た道も考慮して選ぶことが大事になっています。このままの食べ方はやっぱり続けられない。10月16日は「世界食料デー」です。(※2)

関連リンク

(※1)「食料と惑星、健康に関するEATランセット委員会」のサイト 

https://eatforum.org/eat-lancet-commission/別ウインドウで開きます

(※2)「世界食料デー」月間サイト 

https://worldfoodday-japan.net/別ウインドウで開きます

<アピタル:食のおしゃべり・トピック>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/eat/

(大村美香)

大村美香

大村美香(おおむら・みか) 朝日新聞記者

1991年4月朝日新聞社に入り、盛岡、千葉総局を経て96年4月に東京本社学芸部(家庭面担当、現在の生活面にあたる)。組織変更で所属部の名称がその後何回か変わるが、主に食の分野を取材。10年4月から16年4月まで編集委員(食・農担当)。共著に「あした何を食べますか?」(03年・朝日新聞社刊)