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 ずっと見続けてきたドラマの最終回を見逃すのは嫌なものです。これまでのストーリーの積み重ねの後の最後の1ピースがはまることで、私たちはすーっとするものです。だから、あともう1話を見ることは、誰かが止めてもきっと熱望するはずです。

 また、収集癖のある人なら、あと1巻(1こ)そろえばコンプリート!という時には、是が非でも最後の一つをそろえたくなるはずです。

 一方で、全くこれらと正反対の場合もあります。

 子どもが絵画の宿題で、大半はよく描けていてあとはほんの一カ所色塗りをすれば完成なのに、なぜか途中で放り出して仕上げないという現象もそうです。親としては、「あともう少しなんだから仕上げてしまいなさいよ」と言いたくなりますよね。

 同じように、こんな男性もいます。ずっと高嶺の花だと思って追いかけていた女性が、もう少しで振り向いてくれそうというときになると、急に興味がなくなるのもそうです。この場合は、「さんざんその気にさせておいて、いったいあなた何がしたいの?」と疑問がわきますね。

 前回からこうした完成間際で急にやる気が出なくなる、「完成させたくない病」について話題にしてきました。なぜか、ADHDの方で、完成させたくない病について心当たりがあるとおっしゃることが多いのです。その原因について、前回はリョウさんの我が子の小学校入学の書類書きを例に挙げて分析していました。

 リョウさんの書類書きを完成させたくない病の原因は次のようなものでした。

 ❶夫の勤務先の住所や電話番号を調べる必要があった。

 (その場でさっと終わらず、複数の段取りがあるため面倒だった。これは、ADHDの人の「すぐにご褒美が欲しい」という傾向で説明がつきます。時間的に遠くのものには魅力を低く見積もるためで、「報酬遅延の障害」と呼ばれています)

 ❷必要書類を夫に頼む必要があった。

 (❶とも関連します。が、人に頼む必要があるという点で、社会的な要素が入ります。気兼ねするとか、気まずいとか、その人との人間関係が反映されます)

 ❸仕事をするかしないかという直面したくない現実を避けるため。

 (作業自体が不安を喚起するものであったため、回避したということです。先延ばしと同じメカニズムです)

仕事が「新鮮」なうちははかどるのに 

 これらの分析に対して、同じようにADHDの傾向があるリョウさんの夫は、「もっと他にも原因がありそう」と自分の仕事に関する完成させたくない病を振り返りました。

 リョウさんの夫は、ある企画書を上司に見てもらうことになっていました。リョウさんの夫はその企画書にとりかかるのは早く、他の人以上のスピードでおおまかに完成させました。いくつか関連部署に確認すべき項目や、調べて細部を詰めるべきところがありましたが、ひとまず大枠を完成させたのです。

 リョウさんの夫はアイデアマンで、誰にもできないような豊かな発想力があります。その力を買われて企画の仕事を任されたのです。さらに仕事の速さには定評がありました。でもいつも95%完成しているのに、細部を詰めて仕上げるあと5%となると急にやる気がなくなってしまうのです。

 リョウさんの夫は「完成させたくない病」についてこう考えています。

 夫「アイデアが浮かんだときは、ほんとにうれしくて、アウトプットするのが間に合わないぐらいの速さでやるんだ。でもその後が続かないかんじ。時間がたつからかな。もう次の日になると、企画書見たくなくなる。飽きるのかも」

写真・図版

 ADHDの方のやる気スイッチの話を覚えていますか?

 「仕事だから」「大人だから」「みんなもしているから」という義務感では、なかなかスイッチが入らないかわりに、ADHDの方は「新鮮!」「初めて!」がスイッチを押すのでしたね。

 リョウさんの夫が予想しているように、最初に全体をざーーっと作ってしまうことで、把握できてしまい、再度細部を作り込むときには「2度目」であり、新鮮味が薄れるのです。そのため、飽きてしまい、やる気スイッチが入らないのでしょう。これを四つ目の原因として

 ❹新鮮味がなくなって飽きる。

としておきましょう。

 また、この企画書がその後上司のチェックを受けることも、完成させたくない病に関連しているかもしれません。つまり、この企画書が仕上がった後には、上司から評価を受けてしまう。でも、企画書のあらを指摘されてしまうのではないか。そうした結果を避けるために、完成をさせなければ、いつまでも「まだ作成中です」と言うことで回避できるということです。

 ❺完成させてしまうとそれで評価されるのが怖い。

としましょう。

 職場によっては、一つの仕事が終われば、また次の仕事が次々に押し寄せてくるということもあるでしょう。それを恐れて、仕事の完成が怖いという場合も考えられます。

 ❻完成させてしまうとまた他の仕事が来る。

 いかがでしょうか。実のところ、ADHDの方の完成させたくない病の原因はまだはっきりとはわかっていません。が、ご紹介した理由が一つでもピンときていただければ幸いです。

 次回は、原因の❹新鮮味がなくなって飽きる に対する対策をリョウさんの夫があれこれ工夫して打破します。

生きるのがつらい女性のADHD
仕事も恋愛もつまずいてばかり……。
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<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。

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