[PR]

 がんになった患者さんやご家族が、がんの原因について思い悩むのは仕方がありません。ただ、たまにあることなのですが、がんの原因について他人があれこれ口を出すことがあります。具体的には「お酒が好きだったからねえ」とか「外食やコンビニ弁当ばかり食べていなかった?」とかいう言葉です。これは絶対にやめていただきたく思います。

 アルコールの摂取はがんと関連がありますが、その関係の強さは強くありません。ましてや、外食やコンビニ弁当ともなると、がんとの関連は不明です。喫煙と肺がんのように強い関連が知られているものであったとしても、ある個人の肺がんの原因が喫煙かどうかはわかりません。前回もお話をしたように、個人において、がんの原因を特定することは不可能です。集団におけるリスク因子の研究や、公害・薬害の責任追及はしっかりやるべきですが、個人レベルで安易に病気の原因を指摘することは別の話です。

 がんの原因の安易な指摘は、根拠のない食事療法といった意味のない治療法の入り口になったり、患者さんやご家族の後悔・罪悪感につながったりします。ただでさえ大病を患ったことでたいへんな思いをしているのに、さらに追い打ちをかけるようなことをしてはいけません。

 なぜそのような言葉が出てしまうのか、本当のところはわかりませんが、身近な人ががんになったという不安に対し、「がんにかかった人は何か悪い生活習慣を持っていたのに違いない。私はお酒は飲まないし、食事にも気を付けているので大丈夫」と思うことで安心したい気持ちから生じるのではないかと、私は考えています。正しいものも不正確なものも含めて、がんの予防法についての多くの情報があふれています。自分の信じる予防法こそが正しいと確認したいのかもしれません。

 がんに限らず、さまざまな病気についても同じことが言えます。「心身を鍛えれば病気を予防できる」という主張は、容易に「病気になったのは怠けていたせいだ」という主張にすり替わります。医療費を節約したいという目的のためか、「生活習慣病は自己責任だ」という論調があります。「自業自得の人工透析患者は全員実費負担に」という過激な主張もあれば、もうちょっとマイルドに表現されることもありますが、その根底に共通するのは、医学における原因と結果の複雑な関係に対する無理解です。

 リスク因子や予防法の情報を伝えることは大事なことです。そうすることで多くの人たちが病気にならずに済みます。その一方で、予防法の限界についても知られるべきです。予防法を信じすぎるのでもなく、信じすぎないのでもなく、ちょうどよいあんばいを私は目指しています。

《酒井健司さんの連載が本になりました》

これまでの連載から80回分を収録「医心電信―よりよい医師患者関係のために」(医学と看護社、2138円)。https://goo.gl/WkBx2i別ウインドウで開きます

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。